2019年4月から「働き方改革関連法」が順次施行され、原則、時間外労働は月45時間、年360時間が上限となりました。しかし、会社から定時退社を奨励されてはいても「仕事に切りがつけられずなかなか帰れない」という人も多いのではないでしょうか。
「仕事に切りがつけられず定時で帰れない人は、基本的に生真面目に考えすぎるのかもしれません」と言うのは、メンタルケア・コンサルタントの大美賀直子さん。大美賀さんによると、明日でも間に合う仕事なのに残業してでも徹底して終わらせようとするのは、自分の決めたルールを忠実に守ろうとする人に多いそうで、心当たりのある人も多いはず。
また、残業が当たり前になっていて、会社自体が定時退社できる雰囲気でない場合もありますよね。働き方改革なんてどこ吹く風、「長時間職場にいることが組織への忠誠」「上司より先に帰るべきではない」という暗黙のモラルに縛られている会社もまだまだあるかもしれません。
それでも、自分自身の心身の健康のためにも、会社での評価を落とすことなく、かつ毎日定時で帰るのが理想ですよね。そのためにはどのような意識改革が必要なのか、詳しく見ていきましょう。
大美賀さんによると、定時退社をモットーとし残業しない人は、定時で帰ることをとことんポジティブに捉えているそう。
「残業しないと“仕事でラクをしようとしている”と引け目を感じてしまう人もいるかもしれません。残業しない人は、“効率良く仕事している”という捉え方をしています。その考え方ならば定時退社に罪悪感を抱きにくくなるのではないでしょうか」(大美賀直子さん)
思い切って仕事を切り上げるのも大切なことだそう。
「例えば、時短勤務している人の多くは、定時より早く会社を出るために、どうしたら効率的に仕事をさばくことができるかを常に考えて仕事をしています。仕事は優先順位をつけて取り組み、急ぎでないなら、何が何でも今日中に終わらせることにこだわらないことも大切です」(大美賀直子さん)
大美賀さんによると、残業というのは本来、繁忙期や非常時などのように、イレギュラーに対応するための時間。1日8時間の法定労働時間の中でできる仕事をするのが、労働の原則なのですね。
残業をしてでも仕事を終わらせた方が会社の利益になると考えがちですが、実は逆で、社員が残業をしない方が、長期的に見ると会社にとってプラスになるのだと大美賀さんは言います。
「経済産業省が推進しているように、現代は『健康経営』の時代です。従業員の健康を増進させれば、仕事に十分なパフォーマンスを発揮できるようになり、その結果、企業も業績向上や企業価値の向上につながることが期待できます。近年、定時退社を推奨する企業が増えているのもその流れです」(大美賀直子さん)※
自分自身が心も体も健康で長く働き続けることが、会社のためにもなるのですね。
今抱えている仕事量を減らさずに定時退社を目指すには、業務中は集中して仕事を行い、かつ仕事の効率化を図る必要があります。
仕事の効率化を進めても定時退社が難しいようなら、あなたにとって今抱えている仕事の総量が多すぎる可能性があります。その場合は頼まれた仕事を上手に断る必要があります。そんなときに覚えておきたいのが“DESC(デスク)法”という方法です。自分の要望を上手に相手に伝え、納得させるための手法のことで、Describe(描写する)、Express(表現する)、Specify(特定の提案をする)、Choose(選ぶ)の頭文字を取ってDESC法と呼びます。
仕事をうまく断る場合のDESC法使用例をみてみましょう。
例)
D:まずは、今の状況を客観的、具体的に描写します。
「今複数の仕事を抱えています」
E:次に、今の状況に対する自分の思いを冷静に伝えます。
「このままでは毎日2時間以上の残業になりそうです」
S:続いて、今の状況の中で実現の可能性の高い提案をします。
「この仕事は他の人に回していただきたいです」
C:最後に、選択肢を広げ、幅を広げて検討できるようにします。
「私から○○さんにサポートをお願いしてみますが、いかがでしょう?」
“その仕事はできません!”と一刀両断に断るのでなく、相手に他の選択肢を提示して選んでもらうこと。これによって、角を立てずに交渉を進めることができます。定時で帰れる人はこうした交渉術を何気なく取り入れている人が多いと思います。このように仕事を最適な量に調整していくことで、定時退社に近づくことができるでしょう」(大美賀直子さん)
会社の雰囲気に流されて毎日残業している人は、まずは週に1日だけでも残業しない日をつくることから始めてみましょう。それを続けることで、毎日残業が当たり前だった周囲の人も“定時に帰っても良いんだ”という考え方に変わっていく可能性もあります。
定時退社が習慣化すれば、健全なメンタルを保てることはもちろん、家族や友人、パートナー、ひいては職場の人と、今よりさらに良い関係を作ることができます。退社後に空いた時間で、これまでできなかったことを始めれば、毎日の幸福感がアップするかもしれませんよ。
参考
※経済産業省ホームページ「健康経営の推進」