親しみやすいキャラクターと、安定感のあるトークの中にくすっと笑えるネタをちりばめたちょっとシニカルな漫才が人気。漫才コンビ「ぺんとはうす」世良光治さんをご存知ですか?世良さんは、芸能界の中でもちょっと変わった経歴の持ち主。若手お笑い芸人として活躍する一方、実は「宅地建物取引士」の資格を有する敏腕不動産営業としての顔も持ち合わせているんです。
どこを探しても他に類を見ない!?「不動産芸人」として注目されるようになった理由を伺いました。
「子どもの頃から『自分がいちばんおもしろい』と思い込んでいるタイプでした(笑)。芸人になりたいという希望はずっとありましたね。でも最初の就職は大手不動産販売会社だったんです。父が不動産業だったこともあり、自分にとっても身近な業界だったので選んだことと、正直なところ、いくつか就職先を探す中で、いちばん初任給が良かったことが決め手でした(笑)。芸人になりたいという夢はもちろんあきらめていなかったので、その軍資金をためるためにまずは不動産営業としてがんばろうと思ったんです。不動産営業の仕事は最初から楽しかったですね。当時はアベノミクス効果やオリンピック招致が決まったタイミングで不動産がよく動いていましたし、僕はおかげさまで営業成績も上々でした。1年目は新卒の営業マン約150名の中で取扱物件1位になり新人表彰され、2年目の5月には首都圏約900名の全営業職員の中で営業成績1位になりました。今でもちょっと自慢です」(世良光治さん)
サラリーマン時代のぺんとはうす世良さん
お笑い芸人になるという夢を叶えるために不動産業界に就職したという異色の経歴を持つ世良さん。不動産営業の仕事にも才能を発揮したことで、いよいよ芸人の道へ進むと決めた時は周囲からの引き止めもあったそうです。
「NSC(吉本総合芸能学院)へ入学すべく、お世話になっていた会社を辞めることを決意した時はありがたいことにずいぶん引き止められました。部長クラス以上や、他の部署からの説得もすごくて。『芸人になるって聞いたけど、嘘だろ?』って言われたりもしましたね(笑)。兼業も勧められましたが、愛着がある不動産営業の仕事に多少なりとも未練があっただけに、最初はすっぱり辞めた方がいいと思って……。2年間お世話になった会社を卒業し、前に進む道を選びました」(世良光治さん)
好きだった不動産営業の仕事を辞め、いよいよ芸人一本に道をしぼった世良さん。不動産の仕事に愛着があったので、下積み時代のアルバイトはあえて酒屋の注文受付など全く別の仕事を選び、不動産業界への未練(?)を断ち切るようにしていたそう。しかし周囲の思いがけない助言で、現在の「不動産芸人」の道が開けたと言います。
「下積み時代は徹夜でネタを作ってはオーディションを受けまくるわけですが、審査員の方などに自己紹介として不動産業界での経験を話すと、とてもおもしろがってくださるんです。芸人の中で宅建士を持っているというキャラクターが珍しいし、そこを掘っていった方がいいんじゃないか?って。先輩芸人の方々からも同じアドバイスを頂戴したこともあり、芸人として修行をしながら、不動産営業の仕事を再開しました。最初はネタの仕入れが目的という不純な動機だったかもしれませんね(笑)。でももともと好きな仕事ということもあり、芸人も不動産営業も100%以上の熱意を持って取り組んでいます!」(世良光治さん)
世良さんが不動産芸人として活躍している背景には、「宅地建物取引士」の資格を持っているという信頼性も大きいそうです。通称「宅建士」は、合格のハードルが高く難しい資格のようなイメージがありますが、不動産業界でより多く結果を残したいと思う人はぜひ取得を目指してほしい、と世良さんはおっしゃいます。
「宅地建物取引士の資格を持っていると、不動産営業として大きく二つのメリットがあります。一つは、お客様との物件契約の際に『重要事項説明』を行うことが可能になること。もう一つは契約書類に捺印ができることです。宅建を持っていない場合は、この工程は宅建士を持っている人にお願いする必要がありますが、宅建士を取ることで、初めてすべての物件契約を自分一人で責任を持ち行うことができます。僕は今、個人事業主として不動産営業の仕事をしているので、すべての契約を自分でクローズできるとその分収入面でもメリットが大きいですね。また、僕の場合は芸人仲間や芸能界の方々のお客様が多く、物件の条件や内見の時間などがちょっと特殊なこともあります。深夜など、通常の営業時間以外に契約業務をすることも多いので、宅建士の資格は必須です」(世良光治さん)
不動産資料を作成中のぺんとはうす世良さん
芸人としても、不動産営業としても堅実な活躍の場を後押ししている宅地建物取引士の資格。世良さんは最初の就職の時に資格取得を目指し、見事合格したそうです。でも働きながらの資格取得はなかなかハードだったのだとか……。
「就職した年の6月から勉強を始め、働きながら半年ほど勉強をして試験に挑みました。僕の場合は週1回学校に通いましたね。休日を返上しての通学で、朝から夕方までのクラスだったのでなかなかしんどかったです(笑)。つい、今日はさぼりたいなぁ……という怠け心が出てしまうこともありましたが、当時の上司がとても厳しい人だったので白目をむいてでも通いきりました。今でこそ言えますが、あの上司のもとで不合格のレッテルが貼られたら、未来永劫ネタにされて評価にも響きまくりますからね(笑)。試験当日はかなり緊張しましたし、終わった時もあまり良い手応えはなかったように記憶しています。宅建の試験は50問の設問にマークシートで答える選択式なのですが、答案用紙を回収する時に、となりの方の答案用紙と僕の答案用紙のマーク箇所が全く違っていたんですよ!これにはビビりました……。でも何とか無事に合格することができた時は本当に嬉しかったですね。宅建は、合格率が15%と言われる狭き門ですし、試験勉強も一夜漬けでは厳しいことは重々承知していました。例えば毎日の通勤時間や、寝る前にスマホをなんとなく見ている時間など、無意識に過ぎてしまうスキマ時間をうまく使って少しずつ勉強するのがベストだと今でも思うのですが、なかなかその時間を捻出するのが大変でしたね。確実に合格を目指すとしたら、一発ホームランを狙う集中型の勉強ではなく、毎日少しでも、コツコツとテキストを進めるのがおすすめです。僕が苦労したので、ぜひ参考にしてください!」(世良光治さん)
世良さんは会社員時代に不動産営業として仕事の幅を広げスキルをアップさせるため資格取得にチャレンジしましたが、そのメリットは転職や独立の際にも得られるそう。
「僕のように個人事業主として不動産営業を行う場合はもちろんですが、宅建士の資格は即戦力として企業への就職・転職に有利なポイントがたくさんあります。まず土地や建物を扱う不動産会社は、原則として社員のうち5人に1人は宅地建物取引士の有資格者である必要がありますから、多くの応募数がある採用案件などでは、まずそれだけで大きなアドバンテージになります。また、同じ条件で就職したとしても宅建士を持っていることで特別手当てがつく企業も少なくないので、就職した後の収入面でのメリットも大きいと思います」(世良光治さん)
さらに宅地建物取引士の資格は、不動産業界以外での就職・転職にも即戦力としてアピールできることがあるのだとか。
「実はあまり知られていないことですが、宅建士の資格は金融業界や一般企業の経理、建築業界といった他業種でそのスキルが求められることも多いんです。宅建士は国家資格というだけあって弁護士や司法書士と同じ『士業』ですから、社会的な信頼度が高いところが魅力だと思います。『芸人だけど宅建士を持ってます!』と自己紹介をすると、たいていまわりの見る目が変わりますから(笑)。宅建士というと、不動産業界に精通していないとチャレンジできないし難しい、というイメージがあるかもしれませんが、僕でも合格できたので(笑)、興味がある人はチャレンジしてみることをおすすめしますね」(世良光治さん)
「宅建士の資格を持っていることで、不動産営業としても、芸人としても仕事の幅が広がった」とおっしゃる世良さん。一見、芸能活動には関係ないようにも思える宅地建物取引士の資格ですが、世良さんのように芸の肥やしにするという変化球的な生かし方もあるんですね。
せっかく資格を持っているのになかなか実生活で生かせない……という人に向けて、資格を100%生かす方法についてアドバイスを伺いました。
「僕はもともと芸人になりたかったので、軍資金がたまったら不動産営業の仕事はすっぱり辞めるつもりでした。でも不動産営業の経験が今の芸人としての個性づくりに一役買ってくれたことは意外でしたね。よく『芸は身を助ける』と言いますが、僕の場合は不動産営業の実績と宅建士の資格が、芸人としての身を助けてくれていることを実感しています。芸能界と不動産業界って全く関係のない世界のように見えるかもしれませんが、誰でも住まいは必要。芸人としても、不動産営業としても活動することで、芸人としては『不動産芸人』という個性を打ち出していけるし、不動産営業としては芸能界のお客様が多くついてくださる。せっかく資格を持っているのになかなか生かせないという人は、思い切って全く別の業界で自分を売り込んでみる、という考え方もありだと思います」(世良光治さん)
二つの業界でご自身の個性を最大限アピールしている世良さん。一方で、二足のわらじを履くからには、それぞれの仕事へ一人前の責任感を持つ心構えが必要、ともおっしゃいます。
「別業界の仕事を掛け持ちするということは、二つの世界で全く違うお客様を持つということ。それなりの大変さも覚悟しておいた方がいいかもしれませんね。僕の場合、芸人の仕事は時間が非常に不規則なので、不動産の仕事との時間調整が大変です。物件の紹介はスピード感が大事なので、いい案件があれば即行動。例えば劇場の出番と出番の間に内見の予定を入れたり、ネタづくりと不動産契約資料の作成を同時進行したりするのは日常茶飯事ですね(笑)。でもどちらも好きな仕事なので、辛いと思ったことはありません。もし、僕が2人いて、それぞれ一つずつ仕事を選べるとしたら、迷わず1人は芸人に、もう1人は不動産営業マンになって全力投球すると思います!」(世良光治さん)