ニュースキャスター、気象予報士を経て、現在はプレゼンやスピーチのトレーニング講師として活躍する野村絵理奈さん。大手企業を中心に600社3万人の研修実績を持ち、ミス・ユニバースジャパンの公認スピーチトレーナーも務めた経験のある野村さんですが、そもそもなぜアナウンサーを目指したのでしょう。
「ずっと海外での仕事に憧れがあり、大学時代は通訳の専門学校に通っていました。でも留学先で、自分はコミュニケーションが苦手かもしれないと思う出来事があったんです。日本人同士では問題なくコミュニケーションが取れるのに、現地のアメリカ人やインド、中国などから来ている他の留学生が話し始めると、その輪に入って主張できない。これは英語の問題ではなく私のコミュニケーション力が低いのだと気づいて以来、どこかでそれを払拭したかった。そんなときにアナウンススクールの生徒募集の紙を見かけて、参加してみたら体験授業でアナウンスメントの奥深さにすっかり魅了されてしまって……。そこから本気でアナウンサーを目指すようになりました」(野村絵理奈さん)
アナウンサーを目指して勉強を始めた野村さん。その中でも、話し方のテクニックが重要であることに気がついたそうです。
「例えば、語尾のたった1音でも人の印象は変わります。話し方は性格や人間性によるものではなくテクニックであり、話し方を変えれば『見せたい自分』を演出することができます。キャスターや気象予報士を経て、2005年に話し方の会社を立ち上げたのは、話す術は誰にとっても役立つスキルだと考えたから。人前で話すことが苦手な人はもちろん、ビジネスパーソンも話し方のテクニックを磨くことで、自分により自信を持てるようになります」(野村絵理奈さん)
「話すのが苦手」という人が多いのは、日本の公教育で「話し方」について教わる機会がないことも関係している、と野村さんは考えています。
「学校で先生に『大きな声でハキハキと話しなさい』と言われても、具体的に何をどうすればいいのか教えてもらった記憶はないですよね。日本の教育には『話す』専門技術の学びが欠けていると思います。私たちの研修では、大きな声とはどのように発声するのか、ハキハキした発音はどういったものか、話の要点を過不足なくまとめるには、といった具体的な技術を教えていきます。1対1の商談でも、大人数を前にしたスピーチでも、こういった要素を押さえていなければ効率的に印象よく話すことはできません」(野村絵理奈さん)
最近では、営業や会議がオンラインに移行した企業も急増中。「画面越しに伝える技術」に重点を置いたオンラインコミュニケーションの研修の要望も殺到しているそうです。
それでは早速、話し方の基礎となる「発声・発音」「表現テクニック」「ロジカルスピーチ」「緊張コントロールとスピーチパフォーマンス」の4つのポイントを、野村さんに教えていただきましょう。
●発声・発音
声や発音は、その人のパーソナリティをストレートに伝えるもの。発声・発音は話し方の土台です。エネルギーを感じさせるしっかりした発声と、相手が聞き取りやすい明瞭な発音を心がけましょう。そのためには、まず腹式呼吸を意識すること。お腹に力を入れて、たっぷり息を吐き出しながら声を乗せる感覚で話すと、しっかり響く声になります。また、クリアに発音するためには、口の周りの筋肉をしっかりと動かしながら、口を開けて話しましょう。唇や舌も意識して動かすことで、口の中に音がこもらず、メリハリのある明瞭な発音ができます
●表現テクニック
同じセリフでも、話す人が違えば印象は変わります。笑顔をキープする、強調したい言葉の前には1~3秒ほど、話の転換の前には3~5秒ほどそれぞれ間を取る、言葉に強弱のメリハリをつける、感情を乗せて躍動感を感じさせるなど、表現力のある話し方を意識しましょう
●ロジカルスピーチ
物事を体系立てて伝える話し方=ロジカルスピーチは、どんなビジネスの場においても必ず求められるスキル。短時間で大事なポイントを押さえて伝えられるよう、話す前に頭の中で整理しておきましょう。余分な情報が少ないほど、相手もスムーズに内容を理解してくれます
●緊張コントロールとスピーチパフォーマンス
緊張をコントロールし、堂々とした印象を与える視線やジェスチャーなどのパフォーマンスも、話し方の印象を決定する重要な要素です。まずは自分がどんな状況で緊張するのか、緊張したときに出やすいクセ(視線や姿勢の乱れなど)をあらかじめ把握しておき、それを防ぐための具体的な対策を練っておきましょう
さらに一歩踏み込んで「上手いプレゼン」を目指したい人は、次のポイントもチェックしてみましょう。
「『自分がどう見られているのか?』を客観的に分析することが大事です。自分がプレゼンしている姿をスマホなどで動画撮影して、本番までには最低でも5回はチェック&やり直しを。その際には、次のことがしっかりできているかを確認してみてください」(野村絵理奈さん)
●見た目の印象
姿勢や表情、立ち居振る舞い、クセの有無、視線、資料を指す指や手がブレていないか、など。
●話し方
声や発音は明瞭か、抑揚や間、構成はロジカルにまとまっているか、結論は明確か、ポイントをまとめて伝えられているか、など。
また、「プレゼン」と「スピーチ」の違いも認識しておきましょう。
「スピーチは聴衆に向かって身一つで話すのが基本ですが、プレゼンは資料を投影したり掲示しながら行いますよね。テレビに登場するアナウンサーは、映像の上に音声を乗せたり、フリップや画面を手で差しながら、カメラは今どこを映しているかを常に意識して話しています。プレゼンもこれと同じ。最も伝えたい部分は、視覚的要素も最大限に利用して、そこに聴覚的要素をプラスする形で相乗効果を狙いましょう」(野村絵理奈さん)
プレゼンの上達のために何よりも大切なのは、地道な練習を積み重ねていくこと。「話し方が上手い人=プレゼンが上手い人、ではありません」と野村さんは言い切ります。
「段々と仕上がってきたら、コメントは体で覚えてしまうこと。1日1回は暗唱すると決めて、本番までに準備していきましょう。プレゼンが上手な人とは、準備を怠らない人のこと。スティーブ・ジョブズはかつてプレゼンの天才と呼ばれましたが、彼が優れていたのは発声や発音の技術だけではありません。『何のためにプレゼンをするのか』という使命感、そしてそれを達成するための工夫と努力、熱量がずば抜けていたのです」(野村絵理奈さん)
とはいえ、あがり症であったり人前で話すことに苦手意識を持つ人も少なくありません。そんな人はどういった心構えでプレゼン練習に向き合えばいいでしょうか。
「まずは、緊張の正体を知りましょう。準備不足、自信のなさ、テクニックのつたなさ、過去のトラウマなど、緊張する理由は人によってさまざま。そのひとつひとつを紙に書き出して、何をすればその不安要素を潰せるかを考えてみましょう。テクニックが練習次第で必ず上達するように、不安要素も消していけば、次第にパフォーマンスが自然になり、それによって余裕が生まれてくるはずです」(野村絵理奈さん)
プレゼンの達人に、誰しもすぐにはなれるものではありませんが、「この行動をしないだけでも印象は違う!」というポイントがあります。プレゼンのパフォーマンスを低下させるNG行動、「3つの乱れ」について野村さんに教えてもらいました。大事なプレゼンの前にぜひチェックしてください。
●口調の乱れ
「え~、あの~」など無駄な言葉がクセになっている、話すスピードが速くなってしまう。
間が怖い、次に話すことを考え中、文頭や文の最後に調子をとるためについ言ってしまうなど、人によって原因はさまざま。あなたの場合はどの原因で口にしてしまうかをまず分析しましょう。言いそうになったら止める、言ってしまったら次は出ないように注意する、を繰り返すと段々と減らせるはずです。
また話すスピードについても、緊張して速くなる人もいれば、気分が乗って早口になる人もいます。テンポをコントロールし、文脈ごとに聞き手がついてきているのか、反応を確かめる間を置くように意識しましょう。
●視線の乱れ
人の顔を見て話すのが苦手で視線が泳ぐ、天井や床を見てしまう、瞬きが多くなる。
視線の乱れを防ぐには、視線を一定にすることから始めてみましょう。会議室に聞き手が5人いる場合は、通常は中心に座っている人に視線が集中しがちですが、時々、その隣、またその隣、一番端っこの人、と視線をスライドさせると、全員に語り掛けているような余裕を感じさせることができます。視線を一定に動かすことを意識すれば、天井や床に目が行くことも防げるはず。
●姿勢の乱れ
頭や体の重心が偏っている、体がブラブラ動く、髪や持ち物を頻繁に触る。
緊張すると体や顔の筋肉がこわばるため、無意識に筋肉の緊張を解こうと無駄な動きが出てしまいます。そういった動きがいったん気になると、話に集中できなくなる聞き手もいます。改善するためには、自分が緊張すると出やすいクセを知っておきましょう。周囲の人にアドバイスをもらったり、プレゼン練習時に動画撮影して自分のクセを確認したりして。クセが出そうになったら意識して抑える。これを繰り返せば、クセは修正されてきます。
「プレゼンはただ説明する行為ではありません。聞き手の心を掴み、動かし、行動に移させる。それがプレゼンの目指すべきゴールです」と野村さんは言います。何を伝えたいのか?そのためにどうすればいいのか?その道筋が見えたら、あとは練習を重ねていくだけ。コツを掴んで練習さえすれば、誰でも必ず上達できるようになります。野村さんに教わったプレゼンのコツを参考にして、仕事の成果につなげていきましょう!