欧米で話題となり、数年前に日本へ上陸した画期的なかぎ針編み「プランドプーリング」をご存知ですか?英語で表記するとplanned pooling、「計画的に貯めること」といった意味で、文字通り、法則に従って計画的に編み貯めていくことで、アーガイル柄を編む方法です。思わず心を奪われる美しい仕上がり!とても素人には編めそうにありませんが、法則さえ知ってしまえば編み物の経験がない人でもチャレンジできてしまうらしいのです。
そこで今回、InstagramやYouTubeに編み物作品や動画を公開しているゆむやむさん(w.yumyam)に、プランドプーリングの基本や、編み物を始めとしたハンドメイドの魅力についてインタビューしました。
オリジナル作品の動画や編み図を公開するほど編み物にハマっているという、ゆむやむさん。編み物は小さい頃から得意だったのでしょうか。
「実は、昔から編み物が得意だったわけではないんです。数年前、家でネットサーフィンをしていた時にとても可愛いフリンジバッグを見つけて。すごく欲しかったので似たようなバッグがないか調べていると、それらが全部手作りされていることを知って衝撃を受けました。そのバッグを使いたい日までに購入が間に合いそうになかったことから『ならば自分で作ってみよう!』となり、手芸屋さんに駆け込んだのがきっかけでした。それまでは一切編み物とは無縁だったのですが、見よう見まねで始めてみると1目1目が楽しくて。気が付けば毎日徹夜をしながら夢中で編んでいました」(ゆむやむさん)
編み物を始めたのは最近だというのは驚きです!初めて編み物に挑戦する人が最初に揃えておくべきもの、習得すべき基本の編み方などはありますか?
「そうですね。私の場合は、あらかじめ編みたいものが決まっていたので、インターネットで仕入れた情報をもとに、かぎ針と糸を1つずつ購入しました。今では100円ショップでほとんどの道具を手に入れることができますし、編み方や作品の作り方を紹介した動画などもインターネットでたくさん紹介されています。まずは作りたい作品を本やインターネットから見つけて、その作品に必要な道具をそっくりそのまま揃えるのが良いと思います。初心者の方は、かぎ針の動きを見ながら編み進められる動画がおすすめです。かぎ針編みの基本の編み方は『くさり編み』と『細編み(こまあみ)』で、この2つが理解できれば大体の作品が編めるようになりますよ。初めて編む作品は、コースターなどの平らなものがおすすめです」(ゆむやむさん)
『くさり編み』と『細編み』をマスターすることが第一歩なんですね。この基本的な編み方とプランドプーリングとはどう違うのでしょう。どうして鮮やかなアーガイル柄ができるのですか?
「プランドプーリングは基本の編み方に加えて、色が途中で変わっている毛糸を使って色ごとに目数を決め、計画的に編んでいく技法です。色があえてずれるように編み進めていくと、自然と複雑に色が交わりあった美しいアーガイルの模様が浮かび上がってきます。編み方が難しそうに見えますが、基本の『くさり編み』と『細編み』だけでできるので、慣れてくると簡単に編めてしまうところがすごいところです」(ゆむやむさん)
プランドプーリングの編み方を学ぶ前に、かぎ針編みの基本技法である『くさり編み』と『細編み』を習得しておきましょう。この2つの編み方が作品制作のベースとなります。
かぎ針編みの基本技法をマスターしよう~『くさり編み』と『細編み』~
【くさり編み】
編み始めの土台となる作り目に使われる編み方です。
1.糸を人差し指にかけて先端を垂らして持ち、かぎ針を糸の向こう側にあてます。
2.針先を手前に押すように回転させ、針の周りに糸を巻き付けます。
3.巻き付けた輪の交点を押えながら、針先に糸をかけて輪の間から引き出します。
4.糸の端を引っ張って輪を引き締めます。これが最初の目になります。
5.3を繰り返して編んでいきます。
【細編み】
くさり編みの作り目を土台にして編み始めます。厚みのある編み上がりとなります。
1.くさり編みの作り目ができたら、立ち上がりのくさり編みを1目編みます。
2.作り目の1目目の裏側の山に針を入れ、糸をかけて引き出します。
3.もう1回糸をかけて、今度は2で引き出した糸の輪と立ち上がりの輪の2本から一緒に引き出します。
4.これで細編みが1目編めました。
5.この後はくさり編みの裏側の山を拾いながら、続けて編んでいきます。
かぎ針の基本技法、『くさり編み』と『細編み』を覚えたら、いよいよプランドプーリングにチャレンジです。まずは、準備するものを教えてください。
「プランドプーリングができる毛糸は、1本の中に何色か入っていて色の順番と長さが一定で繰り返されている糸です。1つの色で『細編み』が3目以上編めるものを選びましょう。一般的には『マルチカラー』という名称で販売されている糸なのですが、手に入りやすいのは100円ショップで売っているマルチカラーの毛糸ですね。手芸糸専門メーカーからもマルチカラーの毛糸が豊富に出ています。最近では、プランドプーリング用の毛糸として販売されているものもあるようです。あとは、その糸に合ったサイズのかぎ針を1本用意すればOK。今回制作した作品では、アメリカのメーカーの毛糸を3種類使用しました」(ゆむやむさん)
色の順番と色の長さが同じサイクルで繰り返される毛糸を選ぶのがポイントなんですね。糸とかぎ針の準備ができたら、早速編み始めてみましょう。
1.土台となる作り目を作る
まずは『くさり編み』で最初の作り目を作ります。例えば、写真のようにホワイト→グレー→ターコイズ→ボルドーと色が変わっていく糸なら、この4色で1サイクルと考えて、『くさり編み』で作り目を何サイクルか編み、好みの幅まで編んでいきます。
2.1段目の1目を編む
次に、土台の上に1段目を編んでいきます。サイクルの最初の色(この場合ホワイト)が針にかかっている状態で、作り目の4つ目の糸をすくい、『細編み』1回と『くさり編み』1回を編み、これを1段目の1目と数えます。
3.『細編み』1回+『くさり編み』1回を繰り返して1段目を編む
次は作り目を1つ飛ばして2つ目のところの糸をすくい、また『細編み』1回と『くさり編み』1回を編みます。これを好みの編み幅に合わせて何サイクルか繰り返し編んでいくと1段目の完成です。1つの色で『細編み』1回+『くさり編み』1回のセットを何目編めるかメモしておきましょう。
4.1段上がるごとに1目ずらしながら編み進める
2段目に上がるとき、最後の色の1目をほどいて2段目の1目として編み直します。こうすることで色が1目ずれることになり、後は1段上がるごとに1目ずつずらしながら繰り返して編んでいきます。
「説明を読んでピンとこないという方は、実際に編んでいる動画を見ながら挑戦してみてくださいね」(ゆむやむさん)
「初心者の方の場合は、色が濃い毛糸を選ぶと色が変わったところが分かりやすいためオススメです。『細編み』を編んだ時、縦方向に2本の糸が並ぶ部分を【足】と言いますが、この足の部分に注目して目数を数え、ちょんちょんと色を置いていくような感覚で編むことがポイント。あとは目数を間違えないように気をつけましょう!」(ゆむやむさん)
プランドプーリングの編み方の基本を教えていただいたところで、アーガイル柄の編み地を活かし、普段使いできるオシャレな作品に仕上げるポイントはどんなところなのか、ゆむやむさんが実際に編み上げた作品を参考に教えていただきましょう。
「今回は、クラッチバッグとマルチカバー、ペットボトルホルダーを作ってみました。
クラッチバッグとマルチカバーはプランドプーリングのアーガイル柄を活かして、初心者の方でも作りやすいよう、往復編みで編んだものに縁をつけるシンプルな構造に。これは縁に使う糸や編み方によって雰囲気がずいぶん違ってくるので、好みにアレンジできますね。また、毛糸選びもポイントの1つで、今回は寒い季節にぴったりのフェイクファーとモールのようなモコモコしている糸を選んでみました」(ゆむやむさん)
クラッチバッグ
マルチカバー
「ペットボトルホルダーは応用編で、玉編みでプランドプーリングをしつつ輪編みで編んだものにファーを付け、100円ショップで購入したハンドルを使用しました。違う編み方でプランドプーリングをやってみると、また別の柄になるんです」(ゆむやむさん)
プランドプーリングの初心者にとって、どのようなアイテムが作りやすいのでしょうか。
「作りたいものには好みもあると思いますが、最初はブランケットやマフラーなど、幅が細くても太くてもどちらでもOKなものが作りやすいかなと思います。ただ、あまり大きいものだと疲れてしまうので、私の場合はひとまず糸を数サイクル編んでみて、『この幅で何が作れるかな?』というところから考え出すようにしています」(ゆむやむさん)
鮮やかなアーガイル柄が編めるようになったら、いろんな作品に仕上げてみたくなりますよね。ゆむやむさんが考えるプランドプーリングの魅力とは、どんなところにあると思いますか?
「やはり、たった1本の糸で美しい模様が浮かび上がってくる点と、慣れれば簡単にできるところですよね。そして、プランドプーリングはアーガイルが代表的な模様ですが、そのうち世界中の編み物マニアの方たちがいろいろな方法を試行錯誤して編み方を考案し、違う模様が生み出されてブームになるのではないかと予想しています。今からワクワクしますね」(ゆむやむさん)
編み物は、少しずつ編み上げていく工程を楽しみ、完成した作品を身に付けたり使ったりして楽しむところに面白さがありますね。編み物に限らずハンドメイドに夢中になると、色を選んだりデザインを考えながら、自分好みのアイテムを手作りする楽しさを体験できます。実際に、ゆむやむさんは、スクールに通って講師の資格を取るほど、編み物にハマったそうです。
ゆむやむさんにとって、編み物の魅力とは?
「編み物の魅力と言えば、もちろん完成した時の達成感もそうですが、完成するまでの過程がとても好きです。頭を使って計算した数字がバッチリ合っていた時や、理想通りの形になった時。何回間違えても納得できるまでやり直せるところも魅力ですね。場所を選ばずいつでもできるので、何かの待ち時間を有効に使えるのも編み物の素晴らしいところです。私は、毛糸が続く限りイライラせずにどこでも何時間でも待てますよ。公園に行って日向ぼっこをしながら外で編み物をしている時は、本当に至福の時です。編み物やハンドメイドを始めてから、自分ひとりの時間を作り、大切に使うようになりました」(ゆむやむさん)
これから編み物を始めたいと考えている初心者さんへ、アドバイスをお願いします。
「一見難しそうに思える編み物。人によって相性があると思いますが、とりあえず最小限の道具『毛糸とかぎ針』を揃えて編み始めてみましょう!私も本格的にスクールに通い出すまでは、少しのかぎ針しか持っていませんでしたし、編み図も読めませんでした。編み図が読めなくても分かりやすい動画がたくさんありますので、ご自身に合ったものを見つけてみてください。1つの作品を完成させる頃には、次の作品が編みたくなっているかもしれませんよ!」(ゆむやむさん)