●こども食堂とは?
地域に住む大人たちが食事を作り、子どもたちと一緒に食べる場所のこと。子どもに対して大人の目が届くようにと、みんなで賑やかに食卓を囲むことを目的としている取り組みのひとつ。子育てで大変なお母さんの手助けにもなっていて、食堂には地域に住む多くの子どもが集まります。
――末岡さんが「恵比寿じもと食堂」をはじめたキッカケは?
昨年たまたま書店で手に取った一冊の雑誌で、大田区の「コミュニティ八百屋だんだん」さんが「こども食堂」という取り組みをやっていらっしゃるということを知り、感銘を受けたんです。
読み終わった頃には、もう、私もやるんだって決めていました。
――それまで、こども食堂の存在は知っていましたか?
いいえ、全く知りませんでした。当時私の娘は6歳だったんですけど、もう少し早く、近所にこういう食堂があると知っていれば、子育てももっと楽だったかもしれないと思いながら雑誌を読みました。
――どうして、ご自身でもやろうと思ったんですか?前からそういう場所が好きだった?
家に人を呼んだりするのも好きなんですが、主には自分の子育ての経験からですね。私は26歳の時に出産したんですが、周りに子どもを産んでる人がいなかったこともあって、子育ての悩みををシェアできる人がいなくて……。一人で子育てをしている気がして孤独だったんです。
だから、「恵比寿じもと食堂」の場合は、子どものためというよりは、私みたいに「一人で子育てに奮闘しているお母さんたちのゆりかごみたいな場所を作りたい!」と思って始めたんです。
――「恵比寿じもと食堂」の活動内容とは?
活動は月に2 回で、今は第2、4水曜日です。時間は15時~19時30分。小学校1年生からは一人で参加できて24名が定員ですが、実際は常に30名以上が集まっています。料金は大人も子どもも参加費500円で、一般的なこども食堂よりは少し高めですが。
――15時からというのも、早い時間から始まりますね。
一般的なこども食堂は17時あたりから開店するイメージなんですけど、うちは仕込みを見せることもメインにしているので、15時から開けて、子どもと一緒に食事を作ったりしています。またスタッフもみんな母親だったり、仕事をしていたりします。子どもたちも翌日学校で次の日もあるので、早く終わるようにしているんです。そうすることで、私も食堂を閉めてから家で仕事をしたりすることができるので、ライフワークとして取り組みやすいんです。
――運用資金はどうしていますか?
自己資金でやっていて、今はまだ赤字なんですけど(笑)、野菜やお米は農家さんやお米屋さんがご好意で送ってくださっています。SNSを見てくださっている方で、「地方は過疎化が進んでいる中で、もしかしたら食べた子どもたちが自分たちの土地に興味を持ってくれるかもしれないから」という方もいます。この食堂に心を寄せてくださっている方のおかげで成り立っているんですね。
また、私は知的財産管理技能士の仕事をしていて、資金の面で少しはなんとかなるかなという部分と、仕事の時間に融通が効くので、助かっています。
――末岡さんは、知的財産管理技能士(以下、知財)としても個人事務所をされていますよね?お子さんもいて、両立が大変なのでは?
そうですね。子どもが幼稚園にあがるまでは専業主婦だったので、子育てで一日が終わるような生活でした。幼稚園にあがってからも、週2回11時半、週3回14時に終わるような幼稚園だったので、迎えにいって、家でご飯を作って、といった具合です。でも、一日数時間でも自分に時間があるというのが、私にはとても贅沢なことだったんです。それまではずっと自分の時間なんてなかったので。
なので、限られた時間だからこそギュッと詰め込んで仕事をしていました。幸い、知財は時間があんまり関係なくて、細切れの時間でも出来る場合が多い仕事なんです。だから、「大変でしょ?」「忙しいでしょ?」と言われるんですけど、そんなに大変だと思ったことはないです(笑)。
――食堂を始めてよかったことはありますか?
「初めて生野菜を食べてくれた!」とか、「ここがあってくれたおかげで子育ての肩の荷が下りた」いう親の声が聞けたりするのが嬉しいですね。手伝いに来てくれる方の中には、私が準備をしている間に子どもの面倒を見てくれたり、学校に子どもを迎えに行ってくれたり、私の子育ても手伝ってくたり、という人もいるんです。
食堂をやっていなかった時は、ご近所付きあいといっても、何かを頼むのに気が引けることが多かったんです。10やってもらったら10返さないといけない、みたいなところが私にはあって……。
誰かになにかしてもらうって、してもらう方も気負いするじゃないですか。だからそこは参加費を500円払ってもらうことで、気兼ねなくみんなで問題を解決したりできる。私だけでなく、来てくれている方々同士の中でも、物事を頼んだり頼ったりするっていう「ご近所づきあい」のきっかけになっているんじゃないかなと思います。
――ご家族の関係も、変わったんじゃないですか?
まず、夫の理解とか協力がないとできないことなので、感謝しています。私にも知財という本職があって、「恵比寿じもと食堂」があって、家事もしなくてはならない。
今は、忙しくなればなるほど、夫の気持ちがわかるようになりました。
夫も忙しくて、帰ってこられない日があったりする仕事です。食堂をはじめる前はそれを不満に思っていましたが、今は、仕事の大変さが理解でき、心を寄せられるようになりました。また、子どもも私を手伝ってくれています。
――今は、すべてをどれくらいの割合でやられているんですか?
今は、半分は「恵比寿じもと食堂」に費やしています。今後はもっと増えて行くと思います。実は、最初の頃は個人でやっている知財の仕事では、自分に余裕がなかったこともあって、依頼によってはご依頼をお断りしなきゃいけない場面もあったんです。でも、資格があることで、自由度も増して、働き方の選択肢も増えるんだと気づいた今は、知財関連で週1でアルバイトにも行っています。本職の仕事から離れないようにするためです。そういう意味ではそれがダブルワークかもしれません。自分の立場を増やすことで、子育ても仕事もライフワークも、俯瞰で見られるようになりました。
――末岡さんの中で、「恵比寿じもと食堂」はどんな立ち位置ですか?
今はライフワークですね。一人で子育てをしているお母さんのために食堂を開いているけれど、仕事ではないので。
今は身銭を切る状態でやり続けていることもあり、なかなか運営も難しいんです。かといって補助金などに頼って運営してしまうと、もし打ち切られて運営できなくなった時に、来てくださっている方にも申し訳ないからやりたくないんです。どこかでちゃんと持続可能な、最低限のビジネスにできたらいいなと思っています。
――子育てに悩んだり、ダブルワークのママもたくさんいると思います。そんな方たちが、末岡さんのようにバイタリティを持って活動するにはどうしたら良いでしょうか。
ずっと子育てだけ、とか、子育てと仕事だけ、だと窮屈になってしまいがちだと思うので、趣味や『ライフワーク』を見つけるといいのかなと思っています。自分には母親、知的財産管理技能士、恵比寿じもと食堂、といった3つの立場があるので、いろんな視点から物事を見たりすることができます。
もちろん忙しいですが、「忙しいでしょ?」って聞かれたら、「いいこともいっぱいあるよ!」って返せるようになれたらいいですよね。
3つの立場を持つ1児の母親、末岡真理子さんのお話、いかがでしたか? 専業主婦から、知的財産管理技能士としての立場を持つようになり、さらに「恵比寿じもと食堂」の代表と、大忙しの末岡さんですが、とてもイキイキしていました。仕事や趣味、ライフワークを持つことで、子育ての仕方を見直すよいきっかけになるのかもしれませんね。そこでここでは、これから再就職したいと思っている人にオススメの資格を、キャリアコンサルタントでもあるライターの青木典子さんが紹介します。
プロフィール
末岡真理子(すえおか まりこ)さん
1982年生まれ。福島県出身。結婚前はアパレルPRを務めていたが、その時の仕事仲間が著作権で悩んでいたことから一念発起し、結婚後は知的財産管理技能士として個人事務所を設立。
その後、渋谷区で「恵比寿じもと食堂」を自己資金で設立。代表を務める。周囲を巻き込む力と、即実践の行動力で奮闘。3足のわらじをはく、1児のママでもある。