梅雨の時期になんとなく感じるだるさ。理由がはっきりしないだけに、どう対応していいかわからない人も多いでしょう。そんな季節特有の不調は、中医学の教えに基づいて捉えてみるといいかもしれません。なぜならば「人間の臓器と自然界の流れはリンクしているもの」という考え方が根底にあるからです。
「万物を5つのエレメントに分類する五行説では、梅雨の時期にあたる臓器は『脾(消化器官)』と捉え、具体的には消化機能全般の働きが悪くなる季節と考えます。特に日本の梅雨は高温多湿なので、不調として表れやすいのです」(杏仁さん)
症状としては、胃もたれ、下痢、食欲不振、むくみ、関節の痛み、目やに、胸悶感、痰、ジュクジュクした皮膚の炎症、アトピー性皮膚炎など、胃腸や皮膚の不調が多いのが特徴。いずれも「湿」による邪気によるもの、つまり身体の中に余分な水分が停滞することによって起こるのだそうです。
「湿気が絡むと特に身体が重だるくなり、痰やおりものが増えたり、締め付けられるような頭痛を起こしやすくなります。この症状に陥りがちなのは、体内に余分な『湿』をためやすい人です。ビールやお刺身などの冷たいものや生もの、甘いもの、生野菜やフルーツが好きな人、また汗をかかない人も要注意です。
対応策としては、外と内から湿気を取り除くこと。体表についた『湿』は、発散させることが一番です。スポーツで汗をかいたり、辛いものや身体を温めるものを食べて汗ばませると良いでしょう。内からの湿気は芳香成分のある食材で気の巡りを良くしたり、『脾(消化器官)』を整えたり、利尿作用を促すものを食べるのが効果的です。
なお『湿』は重く、体内でも下に向かう性質があります。下半身を温めたり動かしたり、陰部を清潔にするようにしましょう」(杏仁さん)
前述の対応策で出てきた芳香成分のあるものや、「脾」を整えるもの、利尿作用のあるものとは一体どんな食材なのでしょうか? 「自然に沿ったものを食べる」という薬膳の基本的な考え方について教わりながら、具体的に見ていきましょう。
「薬膳の基本は、その人に合ったものや自然の流れに沿ったものを食べて生活をすることです。その人に合うというのは、体質やその日の体調に合ったもの。自然に沿うとは、簡単に言うと旬のものを指します。
特に日本はきちんと四季がある国。季節ごとの旬の食材には、その時期に起こりやすいトラブルを解消してくれるものが豊富なので、ぜひ積極的に摂ってください。体質に合ったものや自然の流れに沿っていくと、身体のバランスが整って中庸(調和がとれた状態)になっていき、やがて『未病を防ぐ』こと(未来の病気を引き起こさないこと)やエイジングケアに繋がります。これこそが薬膳や漢方の目的でもあるのです」(杏仁さん)
●汗をかかせるもの(解表作用のある食材):しそ、しょうが、ねぎ、香菜など
●脾の働きを整えるもの:トウモロコシ、ハトムギ、ソラマメ、カボチャ、サツマイモ、スズキ、鯛など
●利尿作用のあるもの:冬瓜、小豆、黒豆、サクランボ、アサリ、ハマグリ、昆布、緑豆、とうもろこしのひげ根など
なお、季節の変わり目のことを、五行説のなかの土王説によるしきたりで「土用」と呼びます。梅雨明け直後の時期は、ちょうど1年に4回ある「土用」のうちの1つに当たります。
「『土用』は消化機能ととても関連の深い時期。季節の変わり目は体調を崩しやすく、特に胃腸が弱りやすいという方も多いのではないでしょうか。ちなみにうなぎは湿気を取って精力をつけてくれる働きが、また山椒にも食欲増進や湿気を取ってくれる作用があるんですよ。こう見ると、『土用の丑の日にうなぎを食べる』という習慣は、梅雨の間に溜まった疲れや不調の対策として理にかなっていると言えます」(杏仁さん)
不調の理由や対応策が分かったことで、「なるほど、そうだったのか!」と納得した人も多いことでしょう。今年の梅雨は身体に余分な湿気を溜め込まないよう意識して、快適に過ごしたいですね。
Text:河辺さや香
杏仁美友(きょうにんみゆ)
漢方や薬膳で自身の体調不良が改善したことをきっかけに、本格的にこの分野を学ぶ。大学の薬膳講師、レストランの薬膳メニュー監修、商品開発、企業の講演会、料理教室開催などのほか、テレビや雑誌などでも幅広く活動中。「こころに漢方を、くちびるに薬膳を」をモットーに、身近な食材を使ったカンタン薬膳やわかりやすい漢方の知恵を紹介し、好評を得ている。
季節の食べ物をしっかり摂りたいと思っても、忙しい毎日を送っている方は、毎日買い物に行けなかったり、せっかく買った食材を腐らせてしまったり……という場合も多いのでは? そんなとき知っておきたいのが、食材の保存方法。 正しく保存すれば、味や栄養をできるだけ保ったまま、長時間ストックすることも可能です。