年金は頼りにならないと言われ、ひっ迫した生活を送る高齢者の生活がクローズアップされるなど、老後のことを考えると20代・30代から不安になってしまいます。そんな不安を解消するために、経済評論家であり投資家でもある内藤忍さんに、20代・30代からできる老後へのお金の準備についてお話を伺いました。内藤さんは初心者向けの資産運用に関する本を執筆されたり、早稲田大学で資産運用講座を開講したりするなど、若い世代の資産形成について詳しい評論家です。
内藤さんに「老後に備えて、どのくらいお金を貯めれば安心ですか?」と聞くと、「『老後までにいくら貯める』という目標貯蓄額を決めて頑張るのは、私に言わせれば時間の無駄です。貯蓄額を目標にするのではなく、『お金を生み出す仕組み』を老後までにつくることを目標にすべきです」と、いきなりショッキングな言葉が!
「たとえば60歳までに1億円貯めたとしても、あと何年生きるか、その時点ではわからないですよね。そのため、お金を減らすことが怖くなり、受け取る年金のなかで生活しようと頑張ってしまうのです。超低金利の時代ではほとんど利息は受け取れないですし、年金だけでは余裕のある生活は送れないので、せっかく頑張って節約して1億円貯めたのに、さらにまた頑張って節約し続けることになってしまう。これでは永遠に豊かな人生にはなりません。
とくに20代・30代は、飲みに行ったり遊びに行ったりするのが一番楽しい時期で、自分に投資をする価値がある時期でもあるのに、それを我慢してひたすらコツコツ貯金だけするのは、ものすごくもったいないことです。若い時期にやるべきことは、我慢して貯金することではなく、資産運用を通してお金を生み出す仕組みを理解すること、そしてその仕組みをつくり出しておくことです。
80代の私の母は、父が遺した資産を1円でも減らさないように、最初は頑張って節約して暮らしていました。ですが、私が説得して投資用のワンルームマンションを買ったところ、毎月家賃として一定の金額が入ってくるようになった。すると、生活がガラッと変わったんです。毎月入ってくるお金は、来月もまた家賃として入ってくる。だから、安心してお金を使うことができ、積極的に出かけるようになって、交友関係が広がり趣味も増えました。不動産投資をして、お金を生み出す仕組みをつくり出したおかげで、ものすごく充実した理想的な老後を送っているのです」(内藤忍さん)
――確かに、年金以外にお金を生み出す仕組みがあると、安心して生活が送れますね!しかし、若い世代はマンションを購入できるほどのまとまったお金はありません。どうしたらいいのでしょうか?
「お金を生み出す仕組みをつくるには、まず最低限のまとまったお金が必要ですが、この低金利時代に貯金だけでは無理があります。若い世代だからこそできる資産運用で、少ない資金を着実に増やしていきましょう。具体的には、金融商品に投資して増やすことをおすすめします」(内藤忍さん)
――金融商品と聞くと、株やFXを想像して、特別な知識が必要な上にリスクが高いイメージがありますが、大丈夫なんでしょうか?
「株やFXは短期的に資産を増やすのには向いていますが、その代わりにリスクがあります。なぜリスクがあるかと言うと、特定の株、為替は下がったら下がりっぱなしで回復しないことがあるからです。でも経済全体を見ると、長期的に見れば上がったり下がったりしながらも成長していきます。だから、この経済成長とともに、自分のお金も成長させるような投資をすれば良いのです」(内藤忍さん)
では、どのような金融商品で資産を増やしたら良いのでしょうか?内藤さんに金融商品でお金を増やすポイントについて伺いました。
1. 金融商品に関する記事の予想をあてにしない。
雑誌やWebの予想記事は、どうしても当たり障りのない商品を推奨することが多くなります。たとえば、誰でも知っている超優良企業の株を推奨銘柄第1位にあげられても、そんなことは誰でもわかります(笑)。
また、極端な特定の株の値上がり予想を当てたり、高い利回りの投資信託の実績をうたったりする記事も見かけますが、競馬の予想と同じで、当てた事実だけを都合良く前面に出し、外れた事実は隠していることが多いのです。
2. 株は特定の商品を選ばず、平均を選ぶ。
金融商品ですぐに思い浮かぶものと言えば株ですが、誰もが知っている人気企業、優待がおトクな銘柄など、わかりやすいプラスポイントがある銘柄は、みんな同じことを考えて投資するので、現時点より驚くようなプラスがない限り、予想より上がることはありません。また、逆に人気がなくて落ち込んでいる銘柄は、誰もそれが大底だとわからないので、その時点で買える人はなかなかいません。
株の銘柄を選ぶのは楽しいですが、リスクが高い投資です。リスクを回避するには、「平均」を選ぶことです。株初心者には、特定の銘柄を選ぶのではなく、多くの銘柄に投資する投資信託が、「平均」を選ぶことができるのでおすすめです。平均はインデックスと呼ばれ、日本株なら日経平均が代表的な平均(インデックス)です。
3. 買うタイミングを見極めず、毎月投資する。
株や、「平均」に投資する投資信託も、経済全体に連動して上がったり下がったりします。しかし、その時点ではそれが上限なのか下限なのかはわからないので、「もう少し上がってから」「もう少し下がってから」とタイミングを図るのは、あまり意味がありません。どんな状況の時も、同じ金額を平均して毎月投資すれば、長期的に見て成長する経済の中で、自分のお金を成長させることができるのです。
4. 日本だけでなく、世界の経済をカバーする。
投資信託には「インデックス型」と「アクティブ型」があります。前述のように、インデックス型は、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)など、いわゆる『市場の平均』の指数と同じ値動きをするように、広く浅く投資できます。また自動的に平均を目指して投資してくれるので、淡々と毎月一定額を自動積立すれば、株価が高い時は少なめに、低い時は多めに買うので、自然と効率的な投資ができます。これはネット証券で提供されているサービスです。
インデックス型の投資信託にはさまざまな商品があります。日本だけでなく、先進国や新興国の株を対象にした投資信託もあるので、多くの国をカバーするようにインデックス型の投資信託を組み合わせると、世界全体の経済成長に合わせて、自分のお金を成長させることができます。
アクティブ型は、市場平均を上回るように積極的な投資をするプロのファンドマネージャーにおまかせする投資信託です。短期的なリターンを求めて投資する商品が多いので、若い世代の老後に向けた資産運用には必要ないでしょう。
5. 感情を排除し、続ける。
何度も繰り返しますが、経済は上がったり下がったりします。リーマン・ショックの時、株価が一気に下がり、誰もがもっと下がると悲観的になっていました。実は、株などの資産を安く買えるチャンスだったのですが、それは結果論で、その最中にいると悲観的な感情しか持てないので、そこで資産を売ってしまった人は大損する結果となりました。そんな時でも、感情を排除して淡々と続けた人は、いつしか経済が持ち直し、長期的に見ればプラスになっています。シニアになると、長期的に淡々と続ける時間がありません。老後までに時間がある若い世代は、一喜一憂せず、淡々と続けられる。これは特権です。
コツコツと積立投資信託を続け、ある程度資金を貯めたら、さらに同じく投資信託で増やす選択と、貯めた資金を頭金にしてローンを組み不動産投資をする選択があります。
失敗しにくい不動産投資をするなら、東京23区の駅近物件で、ワンルームの中古マンションが良いでしょう。賃貸需要が高いので、安定した家賃収入が期待でき、自動的にお金を生み出す仕組みがつくれます。ただし、ローンを組める定期的な収入があることが条件だったり、投資信託よりはリスクが高いこともあったりするので、セミナーや書籍を読んでから始めるようにしましょう。
――20代・30代は長期的な視点で、コツコツ投資を続けることがお金を増やすポイントだということはわかりました。しかし、若い世代だからこそ、転職や留学、結婚や出産などのライフスタイルの変化があり、継続が難しくなることもあります。
「コツコツと毎月同じ金額を積立投資信託に投資する方法は、若い世代が老後まで時間があることを味方につけた長期的な運用を前提としているので、留学や企業、マイホーム資金など、目的が明確なお金の運用には向きません。毎月わずかでも良いから始め、転職や出産などで収入が少なくなったら半額にしても良いので、とにかく続けることが大切です。投資を続けるコツは、自動化と習慣化です。自動化と習慣化は、自動引落の投資信託の自動積立を利用すれば誰でも始められます。
また、相場が下がった時にやめないためには、投資仲間がいると励まし合えます。忘れてはいけないことは、投資をしてお金を増やすことは、経済を回し、成長させることにつながる経済貢献だということ。そのことを意識すると、経済の動向が気になったり、税制の変化に敏感になったり、自然と勉強することが多くなるので、自分自身の成長にもつながります。知識の裏付けがあれば、さらに自信を持って続けられるので、本で勉強したりセミナーや講座を受けてみたりすると、知らなかった世界が広がりますよ」(内藤忍さん)
20代・30代からお金を増やすための知識を身につけ、長期的に実践することで、老後に備えられることがわかりました。また、お金を生み出す仕組みを知ることは、自分自身を成長させ、心にゆとりを持って暮らすことにもつながります。あなたも少しずつ老後に備えながら、お金について学んでみませんか?
※この記事は特定の投資信託の推奨、勧誘を目的としたものではありません。金融商品等には価格の変動等による損失を生じるおそれがあります。投資にあたっての最終判断は、ご自身で行うようお願いいたします。
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