今回、俳句の教えを請うべく訪ねたのは、堀本さんが主宰する「たんぽぽ句会」。俳句初心者でも楽しみながら上達を目指せるということで、取材当日も初参加の方がちらほら。
まずは俳句の基本ルールについて、堀本さんに教えていただきました。「5・7・5」の17音で作る以外に、知っておくべきことはあるのでしょうか?
「俳句は『世界一短い詩』と言われていて、海外でも『HAIKU』と、日本語の呼び名のまま親しまれています。俳句の基本ルールは、『5・7・5』の17音であることと、季節を表す『季語』を入れること。基本的にはこの2点をクリアすればいいのですが、『や・かな・けり』に代表されるような『切れ字』を入れたり、あえて『字余り』や『字足らず』にしたり、といった表現方法もあります。
俳句は奥が深い世界ですが、基本中の基本としては、『5・7・5』と『季語』の2つのルールを守れば、自由に作ってOKです」(堀本裕樹さん)
俳句を作る上での基本ルールは、「5・7・5」と「季語」の2つのみ。自由度が高い一方で、だからこそ上手に、美しく作るのは難しそうに感じてしまいます……。堀本さんによると、美しい俳句には以下のような特徴があるそうです。
「言葉のリズムというか、韻律がいいですよね。また、読んで映像が鮮明に浮かぶと『美しい俳句だなぁ』と感じる時が多いですね」(堀本裕樹さん)
美しい俳句は「韻律がよく、映像をイメージしやすい」と言う堀本さん。堀本さんは、そんな俳句を作るためにどんなことを心掛けているのでしょうか?
「一番は、言葉を正確に使うこと。日本語を正確に、美しく使うことが、俳句の美しさに繋がります。17音の言葉って、短いじゃないですか。だから、美しくないと目立つんですよ。1文字でも違和感のある表現をしてしまうと、そこだけ浮き上がって見えてしまうので、一字一句に気を配りながら作るといいですね」(堀本裕樹さん)
ここで、俳句初心者の取材スタッフが、実際に俳句を作ってみました。取材時は立春を過ぎた頃ということで、「たんぽぽ句会」では春らしいお題が。初めての俳句、堀本さんの評価はいかに……?
お題:春浅し
取材スタッフのコメント
「引っ越したばかりの我が家の車庫で、隣家の猫が車と車庫の壁の間で暖をとっている様子を詠んだ句です」
堀本さんの添削
「俳句を作るのは初めてですか?初めてにしてはとても上手だと思います。『陣取る』という表現もユニークでいいですね。情景をさらにイメージしやすくするために、『どんな猫だったのか?』を伝えるといいかもしれません。あとは、『春浅し』という季語について。この俳句の場合、『し』だと言葉がブツッと切れてしまうので、『春浅き』にすると繋がりがよくなります。
以上を踏まえて、僕なら『春浅き車庫に陣取る三毛猫よ』にしたいですね。最後に『三毛猫』と、どんな猫だったのかという一番言いたいことを持ってきて、さらに文末を切れ字の『よ』とすることで感動が乗ってきます。添削は答えではないので、参考までに」
お題:(自由題)土筆
取材スタッフのコメント
「春というと、レジ袋を片手に土手で土筆(つくし)を摘んでいた祖母の姿が浮かんできます。タダでもらえる『レジ袋』を使うという、物を無駄にしないところが、なんとも祖母らしくて印象的だったので、よく覚えているんです。その思い出を俳句にしました」
堀本さんの添削
「僕は一句目よりも、こちらの俳句のほうが好きですね。ただ、もったいないと感じたのが上五(最初の5音)です。レジ袋に入れるということを伝えたかったのは分かるんですが、僕なら『どんなふうに摘んでいたか』を伝えたいですね。そのほうが、ぐっと映像が浮かびやすくなります。
そちらを踏まえた上で、『歩きつつ土手の土筆を摘む祖母よ』ではいかがでしょうか。俳句に動きが出て、情景もイメージしやすくなります。摘み取った土筆をレジ袋に入れているかどうかは、読み手に任せていいのではないかと思いますね。この添削も答えではないので、参考までに」
ちなみに俳句を書く時、読みやすさのために「5・7・5」の区切れごとにスペースを入れがちですが、詰めて書くのが正解だそうです。俳句を楽しむために知っておきたい豆知識ですね。
初心者でも手軽に楽しめるものの、知れば知るほど奥が深い俳句。堀本さんに、俳句上達のコツについても教えていただきました。
「俳句のプロや先生的な立場の方がいる句会に参加するのが、俳句上達の近道です。俳句は、良い悪いを判断する明確な指針が分かりづらい世界なので、1人で作っていると、どこに評価の基準を置いていいのか分からなくなりがちです。その点、句会に参加すると、『同じお題でも他の人はこんな視点で作るんだ』と気付けたり、先生にアドバイスをもらえたりするので、筋の通った学びを得られると思いますよ」(堀本裕樹さん)
俳句は「日常を、人生を豊かにしてくれるもの」と言う堀本さん。
「短い言葉に凝縮して、自分の思いを伝えたり風景を詠んだり……手軽なのに、さまざまな表現ができることが俳句の魅力だと思います。そして、俳句を詠もうと思って日常生活を送ると、今まで気に留めていなかった景色が、輝いて見えるようになるんです。
特に季節の移り変わりには敏感になりますね。先ほど『季語』のお話をしましたが、『季語』を知るということは、日本の季節を細かく実感していくことなんです。季節の花や旬の食べ物も覚えますし、例えば、トマトは1年中スーパーで売られていますけど、夏の季語なので「あぁ、トマトの旬は夏だから、その時期のトマトがやっぱり一番美味しいんだな」などの気付きがありますね。そういったことが日常を、ひいては人生を豊かにしていくことに繋がると思います」(堀本裕樹さん)
俳句を詠む上で欠かせない「季語」。「季語」を知り、季節を繊細に感じることで、日常や人生を豊かに過ごせるようになるというのは、俳句の大きな魅力ですね。ちなみに「季語」を調べたい時は、季語の辞典とも言える「俳句歳時記」で調べるのがおすすめとのこと。あなたもこの機会に、俳句を日常に取り入れて、粋な人生を楽しんでみてはいかがでしょうか。
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