鎌倉といえば、皆さんは「いい国つくろう」という語呂合わせ暗記を思い出すのではないでしょうか。当時源氏の棟梁であった源頼朝が、三方を山に、一方を海に囲まれたこの要害の地(=攻防上で重要な地点)を本拠地に、鎌倉幕府を開き、1192年に征夷大将軍に任ぜられたことで有名ですよね。
しかし意外にもその歴史は古く、鎌倉には縄文時代や弥生時代の遺跡も存在しています。有名な長谷寺などは、奈良時代の藤原房前(ふじわらのふささき)が徳道(とくどう)という僧を招いて開かせたという言い伝えが残っています。ちなみに藤原房前といえば、平安時代の藤原道長の祖先にあたる人物で、光明子の一件や長屋王の変などでも有名ですよね。こんなふうに鎌倉という土地は、鎌倉幕府が始まるずっと前から、歴史の端っこにちょこちょこと顔をのぞかせていたんですね。
鎌倉は、どの季節でも楽しめることが魅力の一つとなっていますが、今回はこれからのゴールデンウィーク(GW)にピッタリの、鎌倉おすすめハイキングコースを、歴史を紐解きながらご紹介します。いつもの鎌倉とは、一味もふた味も違う新たな発見をどうぞご堪能下さい!
鎌倉駅より「鎌倉霊園正門前太刀洗」行きもしくは「金沢八景」行きバスに乗って「十二所神社」で降り、住宅街へと入っていきます。すると途中からいにしえの街道の面影を残す風情のある道へと変化していき、やがて小さな滝のある場所に出ます。
「三郎滝(さぶろうのたき)」と名付けられたこの場所が「朝比奈切通し」のスタート地点です。『切通し』とは、物資や人々の往来のために人工的に山を切り崩して作られた通路のこと。敵が攻め込みにくいようにわざと幅を狭くしたり、馬が足をくじきやすいようにわざと置き石を施すなどの工夫がなされています。
金沢街道の旧道でもある「朝比奈切通し」はかつて、横浜六浦の港から鎌倉へ塩をはじめとする様々な物資を運ぶのに使われた重要な交易路であり、「塩の道」とも呼ばれていました。
金沢街道沿いには『竹寺』として有名な「報国寺」や、鎌倉で最も古く、平安時代に創建された「天台宗杉本寺」、鎌倉五山第五位の「浄明寺」など、有名なお寺が立ち並んでいますので、朝比奈切通しに行く前に立ち寄ってみるのもよいでしょう。
さて、切通しを沢伝いに上がっていくと、15分ほどで頂上につきます。この「朝比奈切通し」は鎌倉幕府3代執権北条泰時が自ら陣頭指揮をとり、整備に当たったとされています。北条泰時といえば武士として初めての法律である御成敗式目を出したことでも有名ですよね。
頂上の岩壁に刻まれた磨崖仏に一礼して下っていくと、当時の面影を色濃く残す断崖絶壁に挟まれた場所に出ます。これぞまさに切通しという体験ができ、なんだか現代から古代へとタイムスリップしたかのようです。道をそれて、源頼朝が鎌倉の鬼門に当たる方角に建てたとされる「熊野神社」を訪れてみるのもよいでしょう。さらに下っていくと車道に出ますので、バス停からバスに乗って金沢八景駅まで出てください。もちろんそこから鎌倉方面にバスで引き返すことも可能です。
北鎌倉駅を起点として、「建長寺」の手前から入って「亀ヶ谷切通し」、「化粧坂切通し」と抜け、最終的には「大仏坂切通し」に至るこのハイキングコースは、最終目的地である「江ノ電長谷駅」までの約5㎞を踏破する本格的なハイキングコースとなっています。
コース途中にある3つの切通しは、他の4つの切通しと合わせ『鎌倉七口』と呼ばれています。中でも「化粧坂切通し」は特に難所として知られ、鎌倉幕府滅亡の折、かの有名な新田義貞が鎌倉攻めの際にここを攻略できず、稲村ケ崎から海路で鎌倉に入ったと言われています。
「化粧坂切通し」を登り切って右に向かうと、「銭洗弁天」との分かれ道があり、そこをさらに右の方に入っていくと、パッと視界が開ける場所があります。ここからの眺望はとても素晴らしく、遠く由比ヶ浜が見え、鎌倉が「三方を山に、一方を海に囲まれた天然の要害」であることを実感できます。
寄り道をせずにひたすら歩けば1時間半で踏破できるコースですが、途中のアップダウンもきつく、また葛原岡神社・源氏山公園・銭洗弁天・鎌倉大仏など見るべき観光スポットが多く存在するため、全部を見て回ろうとすると一日がかりのハイキングとなります。コースの締めに「長谷観音」で藤の花(4月下旬から5月上旬が見頃)を眺め、旅の疲れを癒してください。時間や体力とよく相談して、装備を整えて出発してくださいね。
北鎌倉駅を降りるとすぐあるのが「円覚寺」です。このお寺は鎌倉幕府の8代執権・北条時宗が、2度にわたる元寇(げんこう)により戦死した日本とモンゴルの兵士たちの霊を鎮めるために建てたとされています。院内にある舎利殿は神奈川県で唯一の国宝建築で、禅宗様の美しい建物です。一見の価値あり!
円窓(=めずらしい円形の窓)でも有名なアジサイ寺「明月院」の脇を抜けてハイキングコースに入ると、さっきまで住宅街にいたとは思えないような本格的な山道が待っています。足元に注意しつつ頑張って登りましょう。
30分ほど歩くと『鎌倉アルプス』と呼ばれる山の一つである建長寺の裏山「勝上けん(やまかんむりに献)」山頂の展望台に到着します。ここからの眺めも最高なのですが、さらに10分ほど歩いたところに、「鎌倉十王岩」と呼ばれる「かながわの景勝50選」にも選出されている絶景ポイントがあります。岩の上に登って眺めれば、鶴岡八幡宮から海まで続く若宮大路がはっきり見えます。後方には何と横浜方面の風景も見ることができます。
このあと太平山山頂から「天園」と呼ばれるビューポイントを抜けて「瑞泉寺」の方へ抜けるハイキングコースもあるのですが、そちらはまた紅葉の季節に訪れるとして、今回は元来た道を少し戻って建長寺方面へ降りていくこととしましょう。
「建長寺」は臨済宗鎌倉五山の第1位に列せられる格式高いお寺で、けんちん汁発祥の地としても知られています。また院内には、江戸時代の重要な航路である「東廻り航路」や「西廻り航路」などを開いた川村瑞賢のお墓もあります。4月中旬から5月上旬はツツジやシャクナゲの花も見頃を迎えます。
鎌倉を一言で評すなら、「歴史的建造物といにしえの面影を残す自然が混然一体となった、コンパクトにまとまった観光都市」となるでしょうか。季節ごとに見どころも変化しますので、一年中何度でも鎌倉を訪れてみてくださいね。
【執筆者プロフィール】
宮本毅(みやもとたけし):
算数・国語・理科・社会の4科目すべてを指導する塾講師。生徒のやる気を引き出し、自立学習のさらに先にある「自発学習」を目指す。毎年一回、教え子たちを引き連れて古都鎌倉を練り歩きながら、スケッチブックを片手にフィールドワークをおこなっている。これまでに鎌倉の地で歴史の授業を受けた生徒は、のべ300人以上。著書に「はじめての中学受験」「ゴロ合わせで覚える社会140」などがある。
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