オーラルケアの1番の目的は、「唾液の分泌量を増やし、口の中の健康を保つこと」です。唾液……?と思われる方もいるかもしれませんが、唾液には、口の中の雑菌の繁殖を防ぐ働きを持つラクトフェリンや、脳の若返り作用のある神経成長因子のNGFが含まれています。ほかにも自浄作用、保湿作用、免疫作用など、口の健康に欠かせない多くの作用を持っています。そのため唾液が少なくなると、口内炎が治りにくくなったり、虫歯になりやすくなったりという症状が見られるようになるのです。
パンやパスタなど、あまり噛まなくても飲み込める食べ物を中心とした食生活を送っている方は、あごの筋肉を使わないため、唾液が出にくくなる可能性があります。また、忙しくてストレスのある方なども、副交感神経が働きにくくなり、唾液の出る量が少なくなるということもあります。そんな方は特に、唾液の分泌量を増やし、口の中の健康を保つためにオーラルケアが必要になります。
虫歯がなく、歯の痛みもないので、自分では健康だと思っていても、もしかしたら口の中では何かが起こっているかもしれません。口の中が健康かどうか、以下のチェック項目で確認してみましょう。
1.の「歯の表面のツヤ」では、唾液の分泌量が足りているかが確認できます。唾液が不足していると保湿されないため、歯の表面はツヤがなく乾燥しています。
2.の「歯の黄ばみや汚れ」は、煙草やお茶、コーヒー、赤ワインといった、日常でよく口にするものが原因の場合が多いです。例えば、コーヒーを1日に2杯以上飲む方は、歯全体が黄ばみ、ステイン(着色汚れ)がついているかもしれません。
3.の「口臭」は、舌苔(ぜったい)が残っていることや歯周病が進行していることなどが原因です。口の中に異常が起きていることを知らせるサインとなります。
4.の「歯と歯茎の境目のプラーク」は、放置しておくと歯と歯肉との境目が腫れて、5.の「歯肉の腫れや出血」につながります。この腫れの原因が歯周病です。気付かないうちに、少しずつ進行している場合があります。
どれか1つでも当てはまる方は、口の中が健康ではない可能性があります。歯医者さんで調べてもらい、きちんとケアをしましょう。そして毎日の生活の中でもしっかりと、このあとに紹介するオーラルケアをしていくことが大切です。
「オーラル」とは口の中のこと。歯のケアだけではなく、口の中のケアに関するすべてをオーラルケアといいます。基本は歯のブラッシングですが、指先で歯肉をマッサージすることや、表情筋(口周り、頬、鼻から下、唇を動かす筋肉)のトレーニングをすることも、オーラルケアの1つです。
ここでは、毎日の歯磨きにプラスして行いたいオーラルケアを「夜の歯磨き」と「朝の歯磨き」に分けてご紹介します。
自宅でできるオーラルケア:夜の歯磨き編
夜は朝に比べて時間にゆとりがあるので、じっくりとケアしましょう。寝ている間は口を動かさないので唾液が出にくくなり、口の中に細菌が繁殖しやすくなります。事前の丁寧なケアが大切です。
1:歯磨き+歯間ブラシで、歯と歯の間をしっかりケア
通常の歯磨きのほかにやっておきたいのが、「歯間ブラシ」や「デンタルフロス」です。どちらもブラッシングだけではケアしきれない、歯の側面についたプラークや歯と歯の間の汚れを取り除くために必要です。「歯間ブラシ」は歯と歯茎の間の汚れを取るときに、「デンタルフロス」は歯と歯の間の汚れを取るときに使います。目的に合わせて使い分けてみてください。
歯の表面の汚れは唾液の自浄作用で落ちることもありますが、歯と歯の間の汚れが自然に落ちることは稀です。虫歯が歯のつけ根や歯の間にできることが多いのもこのためです。歯磨きで届かない場所は「歯間ブラシ」や「デンタルフロス」で、丁寧に汚れを取り除いてください。
すでにプラークがしっかりついてしまっている方は、医薬部外品の薬用マウスウォッシュを使い、プラークや歯石を柔らかくしてから、歯磨きやデンタルフロスを使いましょう。
2:「歯肉マッサージ」で唾液を出やすくしよう
寝ているときは口を動かさないので、どうしても唾液の分泌量が減ってしまいがち。唾液の量が減ると、細菌が繁殖しやすい上に虫歯になりやすくなります。しかし、夜に「歯肉マッサージ」をすることで、唾液の分泌を促進できます。
方法は簡単で、歯肉を指で螺旋を描くようにマッサージするだけです。これにより唾液腺を刺激できます。また、歯の表と裏の歯肉を親指と人差し指でつまむと、歯肉の血行が良くなります。歯肉が腫れやすい人や、歯周病の方には特におすすめです。
自宅でできるオーラルケア:朝の歯磨き編
本来は、朝の歯磨きも夜と同じように行うのが理想です。しかし、朝は時間が取れない場合が多いので、電動歯ブラシなどを有効活用して、時間を短縮しても良いでしょう。夜に「歯間ブラシ」や「デンタルフロス」をするのであれば、朝はブラッシングだけでもOKです。
1:歯磨き+舌磨きで口臭予防
口臭予防のため、通常の歯磨きにプラスして舌磨きをしましょう。寝ている間はどうしても唾液が出にくく、口の中が乾燥するため、口臭の原因となる舌苔がつきやすくなります。市販の舌ブラシを使っても良いですし、普通の歯ブラシで奥から手前に向けて優しく5回くらいこすってあげるだけでも、舌苔を取るには効果的です。
2:歯ブラシでも簡単に「歯肉マッサージ」
歯ブラシでマッサージするように、歯と歯肉を磨きましょう。歯と歯肉の隙間に歯ブラシの毛先を当て、小刻みに揺らすだけでマッサージになります。毛先の柔らかい歯ブラシを使い、ゆっくり行ってみてください。「朝は忙しくてオーラルケアに割く時間がない……」という方でも、歯磨きのついでにできるので簡単です。
口元の筋肉がほぐれると唾液の量が増えます。朝食を食べないという方は口を動かさないのでなかなか唾液が出ませんが、このようにして唾液の分泌を増やしておきましょう。
身体を若々しく保つためには、栄養をしっかり吸収できるように食物を細かく噛み砕く必要があります。そのためには、歯が健康であることが前提です。また、歯周病は、動脈硬化や心疾患、糖尿病、誤嚥性肺炎などに発展する危険があります。口の中を健康に保つためのオーラルケアは、実は身体を健康に保つアンチエイジングと深い関わりがあるのです。
身体の能力が充実し、心と身体のバランスが整っている状態をキープし、若々しい身体を保とうというのが医学的なアンチエイジングの考え方です。誰でも老化は進んでいくものですが、ケアすることで老化のスピードを遅くすることはできます。
口の中も身体と同じで、年齢とともに衰えていきます。30代からは老化が始まると言われ、唾液の分泌量が減るだけではなく、口周りの筋肉も減ってきます。身体の変化や老化を感じたら、オーラルケアへ意識を向けると、不具合を改善できるかもしれません。
自宅でできるオーラルケア:アンチエイジング編
柔らかい物を好んで食べるなど、口周りの筋肉を使わないと、口元がたるんでしまいます。しかし、口周りの筋力を上げることで、口元のたるみをなくし、見た目の印象を若返らせることができます。ここでは、美容効果やアンチエイジングが期待できるマッサージやトレーニングを紹介します。
1:ほうれい線予防トレーニング
まずはグッと力を入れて、片方の頬を膨らませてください。5~10秒キープしたら力を抜いて、次は鼻の下だけ同じように膨らませます。そのあと、もう片方の頬を膨らませましょう。このトレーニングにより、ほうれい線ができる原因である、頬のたるみを防ぐことができます。また、頬のシワを伸ばすために、唇の周りを舌で押しながら1周させるという方法もあります。これは唾液の分泌を良くする効果もありますし、口輪筋や大頬骨筋や笑筋も鍛えられるので、顔の印象も変わるでしょう。トレーニングを始めて、1週間程度で効果が現れるはずです。
ここで注意したいのは、ほうれい線を伸ばそうと顔の表面を擦らないこと。皮膚を擦るとシワができてしまうので、あくまでも口の内側からマッサージしましょう。粘膜なら少々力を入れてもシワにはなりません。
2:小顔トレーニング
二重あごを防止し、キュッと引き締まったフェイスラインを作る、小顔トレーニングもおすすめです。首の前側を伸ばすように、上を向いて唇に力を入れます。「い」を10秒キープ、「う」を10秒キープ、2セットずつ行いましょう。鎖骨に手を置いて、首の筋肉が上方に引っ張られているのを感じるように行ってください。次に、唇を固く閉じ、すぼめて「う」の口を作ってください。そのまま右に頬と口を引っ張られるようにして寄せます。これを左方向にも行ってください。1秒ごとに左右にリズミカルに動かして10回行います。
これらのトレーニングは毎日行うことで効果が出ます。行ったあとに少し顔の筋肉が痛くなるくらいやってみてください。表情美人を目指して頑張りましょう。
「虫歯がないこと」=「口の中が健康であること」とは限りません。ぜひ、今回ご紹介したポイントを参考に、口の中の健康チェックやオーラルケアを行ってみてください。また、定期的に行きつけの歯科医院で検診を行うこともおすすめします。口の中の健康は、身体の健康にも影響しますので、この機会にぜひ見直してみてくださいね。