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2017.08.07

ふうせんで宇宙を撮る。夢に挑み続ける岩谷圭介さんにインタビュー

ふうせんで宇宙を撮る。夢に挑み続ける岩谷圭介さんにインタビュー

「好き」を極め続けている人の背中には、確固たる自信と希望が見える気がします。さまざまな失敗や挫折に向き合いながら、それでもチャレンジをし続けるバイタリティはどこからやってくるのでしょう。今回は、日本で初めて小型の風船カメラを使って上空30キロメートルからの撮影に成功した、岩谷圭介さんにお話をお聞きしました。

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失敗を繰り返しながらたったひとりで切り開いた「ふうせん宇宙撮影」

失敗を繰り返しながらたったひとりで切り開いた「ふうせん宇宙撮影」

Photo:Keisuke Iwaya

個人レベルの資金と身の回りの素材を使い、たったひとりで切り開いたプロジェクト「ふうせん宇宙撮影」。これは、大きな風船に発泡スチロールでつつんだ小型のカメラをつけて空に飛ばし、宇宙を撮影するというものです。2012年に日本で初めて撮影に成功し、以降独力で開発を進め精度は劇的に進歩。現在では企業とコラボして、子どもたちに夢を与えたり、宇宙を身近に感じてもらえるような活動を続けています。

また、著書『宇宙を撮りたい、風船で。』では、好きを追求して広がった自分の世界と今後の夢を語り、夢を追う若者が増えていくことを願う岩谷さん。若干30歳にして既にこのような輝かしい経歴をお持ちですが、実は将来について随分と迷ったり、何度も挫折しそうになった経験があるそうです。

ここにたどり着くまでには、一体どんな「いばらの道」が待ち受けていたのでしょうか。まずは、「ふうせん宇宙撮影」に挑むまでの経緯についてお聞きしました。

Photo:フジイサワコ

とにかく物のしくみが気になった幼少時代、夢は発明家

とにかく物のしくみが気になった幼少時代、夢は発明家

「実は自分の息子が今2歳なんですが、手に取った物をとにかくなんでも分解しようとするんですよ(笑)。僕もそんな子どもでしたね。機械や乗り物など、男の子が興味を持つものは一通り好きでした。当時『宇宙ステーション』(福音館書店)という絵本があったのですが、今でも絵を記憶しているくらい夢中で見ていたのを覚えています。僕達が行けない世界、見られない世界を見せてくれる絵本には随分魅了されましたね。宇宙に興味を持ち始めたのはその絵本がきっかけだと言えるでしょう」(岩谷さん)

「人生には、人よりだいぶ迷っていたと思います」

「人生には、人よりだいぶ迷っていたと思います」

宇宙が大好きな少年だった岩谷さんですが、なぜか宇宙開発そのものにはあまりロマンを感じなかったのだとか。映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(1985年)が好きで、将来の夢は映画に出てくる「ドク」のような発明家だったと言います。

「幼いころは、なにか発明できるかな、と思って物を見ていたわけじゃないのですが、高校入学くらいまで本気でドクみたいになりたいと思っていました。『発明ノート』を自分で作って、何か思いついたら書き留めたりしていて。だから、あれがフィクションで、実際にああいう職業はないんだって知って、当時の僕は全く受け入れることができませんでした。そこから、相当悩みましたね。自分が何を勉強したいのかも、何をやりたいのかもわからない。高校時代に株で稼いだお金があったので、大学入学まではそれで2年間、迷いながら浪人生活を送っていました」(岩谷さん)

悩みに悩んだ末に入学した大学では、工学部の機械工学科で航空宇宙の研究をすることにした岩谷さん。それでも自分が将来どんな仕事に就きたいのかは、全く想像することができなかったそうです。

「卒業したらどこか企業の研究者になりたいのか、そう自分に問うても答えが出ない。在学中も相変わらず人生に悩んでいたんです。でもある日海外のサイトで、風船にカメラをつけて宇宙を撮影したという記事を見て。宇宙が好き、物を作るのが大好き、科学も空も全部好きな僕は、瞬時に『これだ!』と思いました。ただ、その記事には成功したという結論しか書かれておらず、全くやり方がわからなかった。だから、自分で1から調べることになったんですけどね」(岩谷さん)

やりたいことが見つかっても、失敗の繰り返し

やりたいことが見つかっても、失敗の繰り返し

岩谷さんの挑戦は、まず風船の種類を1つ1つ調べ上げ、実際に膨らませるなどして手探りの実験を繰り返すことから始まりました。もちろん風船だけではなく、取り付ける機器についても同様に研究し、試行錯誤を繰り返します。日本では前例がなく、何ひとつ情報がないところから地道に一歩一歩。気の遠くなるような作業を重ねてようやく打ち上げにたどり着くも、全く太刀打ちできない状況に陥ったのだそうです。

「風船にカメラをつけて飛ばし、一定時間上空で撮影した後、気圧変化に耐えきれずに風船が割れて、機材が地上に落ちてきます。打ち上げも大事ですが、撮影データが入ったその機器を回収することがとても重要な作業なんです。毎回だいたいの落下地点を予測するのですが、4号機を打ち上げた時に自分が想像していた場所と全然違うところに落ちてしまいました。その時はさすがに、自分が挑んでいるものはあまりにも難しすぎるんじゃないか、勝負にならない相手を相手にしているんじゃないかって心が折れそうになりました。でも10日後くらいに拾ってくださった方が連絡をしてくれて。あまりの奇跡に背中を押されているような気がして、もう少し頑張ってみようかな、と思いましたね」(岩谷さん)

諦めかけたとき、たまたま拾った人が連絡をくれて戻ってきたという4号機。

「意志が強いって言われますけど、実はこんにゃく並みですよ(笑)」

岩谷さんが再度挑戦しようと決めた後も、試練は立ちはだかります。なんと、手伝ってくれると期待していた周りの人に「責任を取れないから協力できない」「それをして何になるの?」と言われ、ほぼ一人で続けることになったそうです。そんな逆境に立たされながらも諦めずに続けられたのは、相当強い意志の持ち主だったはず、と読者のみなさんは思うことでしょう。しかし、岩谷さんの答えはちょっと意外なものでした。

「よく、『すごく意志が強いね』って言われるんですけど、僕の意志なんてこんにゃく並みですよ(笑)。周りの人は、僕が叶わない夢ばかり追っている人だと思って、いろいろと現実的な意見を言ってくれました。だから、自分で考えたんです。例えば、リスク。風船が割れて電線にひっかかる確率とか、落ちてきた機材が人に当たる確率とか。もちろんそんな公式はありませんから、全部自分で作りました。リスクの率を書き連ねた書類をたくさん用意して、今では風船の専用保険を作ってもらっています。法律に触れそうな部分も全て調べ上げました。

ここまで続けられたのは確かに情熱があったからかもしれませんが、僕の場合は理詰めの部分も大きかったですね。きちんと数字で出して『よし、これなら大丈夫だ、できるはず』と確証を得ていたからできたんだと思います。資金繰りについても僕は割と考える方なので、きちんと計算していました。

実はふうせん宇宙撮影のための資金は、高校時代にハマったパソコンゲームの知識を元に、大学時代にプログラミングの会社を立ち上げていたので、その利益から調達していたんです。自分が持っているものを最大限活かすという点では、得意だったのかもしれません。

夢を情熱だけで推し進められる人もいます。情熱と理論との並行感覚がなくてもできる人はいます。だから、こうじゃなきゃ夢は実現できない、っていうのはないと思います。けれど、意志だけで続けるのってなかなか大変ですよね。大事なのは自分自身の特性を理解して方法を見つけることではないでしょうか。僕みたいな方法でやれる人はやればいいし、友情に頼るのも1つの手です。とにかく、挫折しそうなときに自分を支えてくれる何かがあるといいのかな、と思いますね」(岩谷さん)

これからやってみたいことは、有人宇宙飛行

これからやってみたいことは、有人宇宙飛行

最後に、岩谷さんのさらなる目標について尋ねてみました。

「飛行船に乗って宇宙に行けたらいいなあ、と真剣に考えています。そうしたら、将来宇宙がもっと手の届く場所になってくるんじゃないかな、と。やはり宇宙を自分で体験できる方向に持っていきたいですね。

そこまでの道のりはだいぶ遠いですが、自分が好きなことって頑張れるし、ずっと続けられるものだと思うんです。さっき(前述で)夢を実現することについていろいろと言いましたが、好きなことを見つけて、それを続けてやってみる、これこそが結論だと思います。これを読んでくれた方の中に、そういう仲間がもっともっと増えたら嬉しいです」(岩谷さん)

取材・文:河辺さや香
取材協力
岩谷圭介(いわやけいすけ)さん
1986年生まれ。発明家・エンジニア・アーティスト。北海道大学在学中より、一人で「ふうせん宇宙撮影」をはじめる。現在では国内の様々なメディアに取り上げられ、CMや広告にも起用。他に、企業とのコラボレーション、講演や子どもたちへのワークショップなども行っている。著書に『宇宙を撮りたい、風船で。』(キノブックス)がある。
 

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