――まず、なんとお呼びすればいいでしょうか?
おみそはん、でお願いします(笑)
――「DJみそしるとMCごはん」という名前の由来について教えてもらえますか?
日本人の食の基本はごはんとみそ汁で、ヒップホップの重要な要素は、DJとMCですね。私はヒップホップ(ラップ)を通じて食べ物のことを伝えたかったので両方の重要な要素を掛けあわせて、この名前をつけました。
――「DJみそしるとMCごはん」の活動のキッカケは?
私は女子栄養大学の出身なんですが、卒業研究のテーマが「くいしんぼうHIPHOP ~DJみそしるとMCごはん~」だったんですね。料理のレシピをヒップホップで紹介するという内容なのですが、始めは半分冗談で先生に企画を提出したところ、「それいいじゃない、やってみてよ」と言われ(笑)そこから見よう見まねでヒップホップをスタートしました♪
――なぜ栄養大学に進もうと考えたんですか?
もともと絵を描くことや音楽が好きで、いつかはエレクトーンの先生になりたいなとか、帽子が好きだったので、帽子のデザイナーさんになりたいなと思っていたんです。でも、進路を考えたときに、音楽も美術の世界も、才能があるすごい人たちがたくさんいる世界なので、自分には到底無理なのではないか、上には上がいるぞと思って諦めたんですね。
それじゃあどうしよう、何をやろうと考えたときに、音楽を作ることと絵を描くことはすごく料理に似ているぞ! とひらめいたんです。
例えばキッチンで、こっちでは肉じゃががグラグラ煮えていて、こっちではキュウリの漬物を作るためにトントントンってキュウリを刻んでいて、流しではナスがアク抜きのために水につけてあって……とか、一度にいろんなものを同時進行で献立を作っていく様子が、バンドでいろんな楽器が、同時に音を鳴らして1つの作品を作るのに似ているんじゃないのかなと!
そして、今日のご飯はちょっと地味だから、お皿は派手にしようかなとか、赤いテーブルクロスにしたらすごくハンバーグがおいしそうに見える! とか、そういう風に彩りを考えることは、絵を描くことに似ているなって。だから料理には自分の好きな要素が全部詰まっているんだと気がつきました。
さらに、料理をお仕事にしたり、おいしいものが作れるような手に職をつけたら、世界中どこに行っても仕事ができるだろうし、みんなを笑顔にできる仕事なので間違いないぞと思い栄養大学を選びました。
――「おいしいものは人類の奇跡だ!」というモットーの意味を教えてください
この言葉はもともと私の母の言葉なんですね。私は母の料理が大好きなんです。ひじきを炊いた豆の煮物とか、焼き魚とか、何でもないご飯だったと思うんですが「今日もおいしいね、お母さん」と言ったら、母が「おいしいものは人類の奇跡だからねえ」と言ったんです。
私は元々食べることが好きだったのですが、おいしいものがそんなに壮大なスケールのものだなんて考えたことがなかったので(笑)、すごく衝撃を受けました! 当時その言葉の意味を半分も理解できてなかったと思うんですが、今でも心に残る言葉になりました。
――お母さんのおいしい料理が食べられる生活から、自炊をする生活になって変化はありましたか?
大学に入って一人暮らしで自炊をするようになったのですが、最初は自分で作る料理が全然おいしくなくて、絶望に打ちひしがれてたんですね(笑)学生で外食をするお金もなかったので、生き抜くために必死で料理を覚えていったのが最初の自炊ですね。
だんだん料理ができるようになってくると、その気になれば何でも自分で作れるという楽しさがわかってきて、友達と炭酸飲料にメントスを入れたらどうなるかを実験した後(笑)角煮をつくったりして、友達と一緒に自炊を楽しんだりもしていました。
学生の頃の節約レシピは、大学の実習で大根のかつらむきのテストがあって、それで大量に出た皮をもらって作った「きんぴら」をめちゃめちゃ食べてました!
――おみそはんから料理が苦手な人に一言アドバイスをするとしたら?
「最初は自分の勘を信じない」ことですね(笑)自炊を始めたばかりの頃、自分の勘で料理していたときはなかなかおいしいものができなかったんですが、一度本を読んで、そのレシピ通りに作ったらとてもおいしくできあがって震えるほど嬉しかったんです。
だからまずはレシピ通りに作る! そこでおいしいものが作れるんだと自信が持てるようになり、料理が好きになっていけるんだと思います。
――おいしいは人によっていろんな感じ方があると思いますが、おみそはんが考える『おいしい』とは?
まだ明確に「これだ!」みたいなものはないのですが、おいしいものを食べると気持ちがホクホクしてきて嬉しくて幸せな気持ちになって。おいしいものは私を裏切らないなぁと思っています!
誰かと一緒に食べるとカップラーメンもおいしく感じると思うんですが、一人で食べるのがおいしいと思う食べ物もあるんですよね。
例えば、わたしはパンは一人で食べるのがおいしいと思っていて、お気に入りのパン屋さんのパンを一人で食べていると、自分でもビックリするぐらいニヤニヤしながら食べている気がします。あとは、真夜中に一人で食べるアイスクリームとか最高じゃないですか。一人で全部食べていいんだみたいな(笑)
もしくは前日の夜から食事をセーブして、次の日に濃厚な豚骨ラーメンに「戦いにいくんだ!」みたいな感じで食べに行き、食べきったときの「やってやった!」みたいな達成感も一人で楽しみたい『おいしい』です。
『おいしい』にはいろんな『おいしい』があるから、毎日『おいしい』を楽しんで生きているんだと思います。
――おみそはんが最近よく作っているメニューは何ですか?
いま一番よく作るのはバンバンジーです。NHKのEテレで放送している「ごちそんぐDJ」でバンバンジーを使った「バンバン麺」をテーマにしたんですが、それ以来ハマっていて何度も作っています。
おいしく作るポイントは、鶏がらスープにネギと生姜を入れて沸騰させた鍋に、叩いて柔らかくした鶏肉を入れ、中火で3分したら火を止めてそのまま放置します。そうすると中まで火が通って、鶏肉がしっとりやわらかくおいしく仕上がります!
――「ごちそんぐDJ」がNHKのEテレで放送されるようになって、子どもと接する機会が増えたと思いますが、意識の変化はありましたか?
「ごちそんぐDJ」は、それ程子どもに合わせた簡単な言葉を使っているわけではないので「わかるかな?」と思っていましたが、小さい子たちがテレビの前で食い入るように見ている、踊っているよという話を聞いて、子どもにもちゃんと伝わっているんだなと実感しました(笑)
全部の意味が理解できていなくても、おいしそうな料理や楽しそうな音楽には、ストレートに反応してくれているみたいです。
餃子の回を見た子が、お母さんに餃子作ってとお願いして、家族で餃子を作って食べて、曲のフレーズにある「肉汁ギルティー(※guilty ここでは『おいしすぎて罪深い』の意味)」というのを真似してくれているみたいで、その歳で罪な味を覚えてしまったのかと大爆笑しました。
大人もそういうのを聞いてクスクスってしてもらえたらいいなって思っています。
日々の食事は体を作っているものなので、真面目に食の大切さを伝える食育はもちろん大切だと思うのですが、私は、子どもたちに、なんか料理って面白そう、あれ作ってみたい、食べてみたいとか、おみそはんみたいな帽子を買ってとか(笑)料理や食べ物って楽しんでいいものなんだよというのが、伝わるといいなぁ。
――これから実現していきたい目標や夢があったら教えてください
日本に伝統料理があるように、世界各国にはそれぞれの伝統料理があると思うので、それを食べに行ってみたいです。私たちの食生活にも身近な、ジャガイモ、トウモロコシ、トマトなどの食べ物の起源が南米にあるらしい、という話を聞いたので、実際に足を運んで食べてみたりもしてみたいです。あと、コンビーフを手作りしてみたいです。
――あの、ミュージシャンとしてやりたいことも教えていただけますか?(笑)
はい(笑)ラップがもっと上手くなりたいとかたくさんあるんですが、「ごちそんぐDJ」でたくさんの曲やミュージックビデオができたので、実際にその料理が食べられたり、一緒に出演しているラッパーの方たちと一緒にイベントができたらいいなと思っています。そこで実際に番組を見てくれている皆さんと直接会って、一緒に楽しめたら最高です!
――おみそはん、本日はありがとうございました。
「おいしいものは人類の奇跡だ!」というモットーの通り、おみそはんは、すべての会話から料理や食べ物に対する愛や想いが伝わってくるキュートな方でした。
あらためて食べることの大切さや楽しさを感じるエピソードが満載でしたね。料理が苦手という人はまず、自分の勘を信じずに基本的なレシピをしっかり学んで、それを忠実に再現するところから始めてみましょう。おみそはんのように、だんだん料理を全力で楽しめるようになるはずです。
DJみそしるとMCごはんさんの活動を知ると、食べ物や料理の魅力を伝える活動はまだまだいろんな可能性があることを実感しますね。最近では特技を活かし、育児の合間をぬって自宅で教室を開き家計の収入源を自ら作る女性も増えてきています。今回は子ども連れで参加できる料理教室「おやこキッチン」を主催する古谷真知子さんをご紹介します。