©2016「君の名は。」製作委員会
日本アニメは海外アニメに比べて、ヴィジュアルが多彩です。例えば海外だと、ディズニー、ピクサーほか、大ヒットした『SING』のイルミネーションスタジオなどがあり、いずれも良作をリリースしていますが、ヴィジュアルに大きな違いは感じられません。しかし、ジブリの宮崎駿監督作品と、押井守監督の『ゴースト・イン・ザ・シェル 攻殻機動隊』が、まったく違うヴィジュアルなのは一目瞭然。また『ドラえもん』『クレヨンしんちゃん』のようなキュートな作品もあれば、『君の名は。』のような少女漫画に近い繊細で美麗な絵もあり、監督次第でヴィジュアルがまったく異なるのが日本アニメの特徴なのです。
宮崎駿監督は、世界中のアニメーターのマスター的な存在です。アカデミー賞長編アニメ映画賞受賞の『千と千尋の神隠し』の豊かなイマジネーションの世界は、宮崎監督にしか描けません。押井守監督、新海誠監督など、監督の世界観がそのまま映像とストーリーに直結するのが日本アニメ。実写と同じくらい、監督の個性が重要視されます。また、日本は漫画天国! 少年漫画、少女漫画、青年漫画……漫画の歴史は長く、これらの素晴らしい漫画の数々で培われた創造力が、アニメ監督の個性の礎になっているのでしょう。
日本で見られるアメリカのアニメはファミリー映画が主流ですが、日本のアニメは物語のバリエーションが豊富。ファミリー向けだけではなく、SF、青春に加えてBL系までありますからね。大ヒットした『君の名は。』は青春ファンタジーですが、実は複雑な構成の物語ですし、宮崎駿監督作品は、社会的な問題もはらんだ硬派なストーリーをファンタジーの世界に落とし込んでいます。『ゴースト・イン・ザ・シェル~』や、大友克洋監督の『AKIRA』のように大人向けのSFもあれば、中高校生向け、子供向け、男子向け、女子向けなど、アニメによってターゲットが様々なのも、日本アニメならではです。
©1995 士郎正宗/講談社・バンダイビジュアル・MANGA ENTERTAINMENT
脳以外は義体の主人公『少佐』が、サイバーテロリストである『人形使い』を追跡する物語。近未来を舞台に、ネットに接続する脳と超人パワーの体を持った少佐の活躍を描きつつ、人間性について問う哲学的な内容。わかりにくいところが、逆にマニア心を刺激するのかも?世界の映画人への影響力も強く、映画『マトリックス』で緑の文字が落ちてくるシーンなどは、この映画を参考にしたようです。(発売中/ブルーレイ/4800円税別/販売元:バンダイビジュアル )
©2001 Studio Ghibli・NDDTM
千尋が迷い込んだ神々の国。彼女がハクという少年に助けられ、湯婆婆の銭湯で「千」という名前で働き、豚の姿に変えられた両親を助けようと奮闘する物語。化け物のような神々が住む世界は、これまで見たこともない新鮮さと奇妙さと楽しさと怖さに満ちていて、その中で一生懸命働く千尋のけなげさ、ハクとの交流など泣ける要素も満載。世界の宮崎駿を決定づけた傑作です。(発売中/4700円税別/発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
©2013 畑事務所・Studio Ghibli・NDHDMTK
「竹取物語」をジブリの高畑勲監督がアニメ映画化。竹の中から生まれて、多くの求婚者たちを振り続け、やがて月へと帰って行ったかぐや姫の心の内を描くのが本作。注目点はその画風。筆で描いたような線は手書き風で味わい深く、まさに和風なアニメ。一枚の絵が動くようなアニメを作りたかった高畑監督が、この作品のためにかけた年月と制作費は、なんと8年&50億!(発売中/4700円(税別)/発売元:ウォルト・ディズニー・ジャパン)
©2016「君の名は。」製作委員会
東京の男子高校生と田舎の女子高生の意識が入れ替わってしまい、お互いに情報を残して交流を深めながら、二人が出会うまでを描いた青春ファンタジー。新海マジックと言われる独特の光の放ち方が美しく、物語の神秘性と映像美がリンクしているところも特徴。実に細かく描きこまれた写真のようなリアルな背景を見ていると「東京ってこんなに綺麗だったかな」と思ってしまう。舞台となった場所を、聖地巡礼として訪れるファンも多いようです。
©森見登美彦・KADOKAWA/ナカメの会(イラスト:中村佑介)
大学の後輩である黒髪の乙女に片思い中の先輩は、偶然を装って彼女と会い、印象を残そうとするものの、見事に空回りして振り回されてしまう……。星野源が声の主演をしていることでも話題のこのアニメは、作品ごとに画風が変化する湯浅政明監督が、森見登美彦の原作小説をアニメ化したもの。小説の表紙担当である中村佑介氏がキャラクター原案として参加しており、表紙が動き出すような演出とカラフル&ポップな映像が大胆で、見たことのないアニメワールドが展開されています。
日本アニメのクリエイターは、世界トップクラスの実力者ばかり。そんな素晴らしい才能が生み出したアニメをたくさん見られるなんて幸せなことです。いろいろ見比べて、ぜひ自分好みのアニメを見つけてください。
【執筆者プロフィール】
斎藤香(さいとうかおり)
芸能誌、映画誌の編集者を経てフリーのエディター&ライターに。All About『映画』ガイドはじめ、女性サイトや映画プログラム、PR誌などで映画関連の情報を取材執筆活動中。