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2017.03.07

今年話題の女城主、井伊直虎! 歴史タレント・小栗さくらさんが語る、直虎の生涯とその魅力

今年話題の女城主、井伊直虎! 歴史タレント・小栗さくらさんが語る、直虎の生涯とその魅力

お家存続のため、女性ながらに城主となったといわれる井伊直虎。これまでにあまり注目されなかった人物だけに、どんな人? 時代背景や物語の舞台は? と興味を抱いている人も多いはず。そんな直虎の魅力を歴史タレントの小栗さくらさんに教えてもらいました。

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有名ではなかった「井伊直虎」の高まる人気は、歴史好きも予想外!?

今年話題の女城主・井伊直虎の魅力について「知れば知るほど興味を惹かれる魅力的な人。この機会にその魅力を少しでも多くの人に知ってもらえるとうれしいです」と話すのは、博物館学芸員の資格を持つ歴史タレントの小栗さくらさん。
中学時代に司馬遼太郎さんの小説『燃えよ剣』にハマり、それ以来、歴女の道をまっしぐら! 特に幕末と戦国時代に大変詳しいという小栗さんですが、今年、井伊直虎が注目を集めていることについては、これまであまり注目される機会がなく、それほど有名な人物ではなかったので「かなり意外でした!」と驚きを隠せない様子。では、存分に語っていただきましょう。

信長とほぼ同世代! 激動の時代を生きた「井伊直虎」ってどんな人?

信長とほぼ同世代! 激動の時代を生きた「井伊直虎」ってどんな人?

直虎は江戸時代に多くの大老を輩出することになる名家・井伊家の姫として生まれますが、戦乱の世の中で周囲の人たちが次々と亡くなります。幼いころに出家したものの、度重なる不幸に見舞われ、当主不在となった井伊家を存続させるために還俗(一度出家した者がもとの世俗の人に戻ること)。女性ながらに城主となったと伝わる人物です。

「直虎さんに関する資料はとても少なく、その生涯について詳しいことはほとんど分かっていません。生まれた年も正確には分かりませんが、おそらく織田信長さんと同じころ、1534年前後ではないかと言われています。そして亡くなったのも本能寺の変が起きた1582年ということで、信長さんとはまさに同世代。同じ騒乱の時代を生きた人なんです」(小栗さん)

小栗さんが思う「直虎が今、注目される理由」とは?

小栗さんが思う「直虎が今、注目される理由」とは?

これまであまり知られていなかった井伊直虎に、今、注目が集まっていることについて小栗さんは「華々しいお姫さまではなく、地道に家を支えた意志の強さと聡明さが現在を生きる女性たちに支持されているのかも」と分析。

「直虎さんは生涯結婚もしないし、出家して長い期間をお寺で過ごすなど、決してみんなが憧れるヒロインのようなドラマチックな人生を送った人ではないんです。でも、この人がいなければその後の井伊家はなかったという重要な人物。
周囲に必要とされ、井伊家存続のために生きた人で、自分の許婚だった直親さんと井伊家の家臣の娘の間に生まれた井伊家の跡継ぎとなる子を、自分の子どもではないにもかかわらず守るため大切に育てます。そんな姿が現代には逆に新鮮に映ったり、ヒロイン的ではない人間らしさに親しみを感じたり、自分たちと重なって共感を呼ぶのかもしれませんね」(小栗さん)

謎だからこそより惹かれる!? 直虎の魅力

謎だからこそより惹かれる!? 直虎の魅力

そんな直虎の魅力はどんなところにあるのでしょう?

「直虎さんは、家や領民、跡継ぎである許婚だった直親の子・直政のことを最優先に考え、我慢に我慢を重ねた人なのではないかと思います。
当時、主従関係にあった今川氏が発した徳政令(借金を帳消しにする法令)に直虎さんはすぐに従わず、2年間も領地での発令を引き延ばしたというエピソードが残っているんです。借金を帳消しにすることで領民は一時的に救われますが、お金を貸していた商人たちは困ってしまいますよね。さらに、長期的にみるとその商人たちは同じようなことが起こるかもしれないと考えて、困っている領民たちにお金を貸してくれなくなります。結局のところ、徳政令を出すことで領民も商人もどちらも苦しめることになると直虎さんは考えたのかもしれません。
そう考えた上で、今川家からの圧力に耐えながら長期間引き延ばすことができたのは、女性ならではのしなやかな交渉術と、上からの圧力に屈しない意志の強さがあったからなのではないでしょうか。家の後継ぎとなる大切な子を守りたいという強さは、私も女性としてすごく惹かれる部分です」(小栗さん)

さらに「分からないことが多いからこそ、多くの人が彼女の人生に興味を持ち、もっと知りたいと思うのかもしれません」と小栗さん。

「歴史的資料が少なく謎が多い分、想像できる範囲が広いんですよね。もしかしたら、この時にこうしたんじゃないかとか、ここでこんな風に過ごしていたんじゃないかとか、いろいろと勝手に妄想できるんです(笑)。そんなところも魅力のひとつかもしれませんね」(小栗さん)

直虎の運命を左右した、故郷・井伊谷の立地と許婚の死

直虎の運命を左右した、故郷・井伊谷の立地と許婚の死

そもそも井伊家が追い込まれた原因のひとつが、直虎たちが過ごした井伊谷の立地にもあったとされています。

「このころは全国的に領地を巡る戦いが激化していた時代。特に直虎さんが生まれた井伊谷は三河(現・愛知県東部)と遠江(現・静岡県西部)の国境周辺になり、交通の要所とされていました。そのためいろいろな勢力によって取り合いになり、争いの絶えない場所でした。そんな場所柄、井伊家は味方から疑われることも多く、実際に直虎さんの許婚だった井伊直親さんも敵との内通を疑われ殺されてしまいます」(小栗さん)

その直親の死を含め、直虎の人生の大きな転機となるのが1560年から次々に起こる井伊家の不幸。

「1560年に父である井伊直盛さんが桶狭間の戦いで亡くなり、その2年後には直親さん、その翌年には曾祖父の直平さんも亡くなります。その間にも有能な家臣たちが次々と戦で亡くなっていき、井伊家を支えていた人がほとんどいなくなってしまうんです。そこからが直虎さんの正念場なんですが。想像の範囲ではありますが『生き残った自分が家を守らなければ』という思いが、その後の城主としての彼女の強さになっていったのかもしれませんね」(小栗さん)

直虎を語る上で欠かせない、二人のキーマン

直虎を語る上で欠かせない、二人のキーマン

戦乱の世に巻き込まれた井伊谷と家を守るために城主になる直虎。その人生に影響を与えたキーマンを挙げるなら、城主になるきっかけを作った直親と、城主になってからも支え続けた南渓和尚である、と小栗さんはいいます。

「直虎さんの人生を語る上でやっぱり許婚だった直親さんは外せません。もし許婚としてこの人と普通に結婚していたら、もしこの人が生きて家督を継いでいたら……、きっと直虎さんの人生は大きく違っていました。後に直親の子を育て守ることになるという意味でも、直虎さんの人生にとっての最大のキーマンかもしれませんね」(小栗さん)

そして直虎の大叔父だったといわれている龍潭寺の住職、南渓和尚。

「南渓和尚さんは直虎さんにとって軍師的な立場の人だったと考えられています。この時代、武将には戦術や政治のアドバイスをするブレーンとして、軍師的な存在のお坊さんが多くついていました。直虎にとっては南渓和尚さんがそんな頼りになる存在だったと言われています」(小栗さん)

今こそぜひ訪れたい、井伊直虎ゆかりの名所

写真提供:浜松市


直虎について興味が湧いたという人に小栗さんがぜひ行ってみて欲しいというのが、井伊家の菩提寺であり、出家時代を過ごした龍潭寺(静岡県浜松市)。

「私も訪れましたが、雰囲気もよくて、庭園のお花もきれいなすてきなお寺です。直虎さんを含めた井伊家の人たちの墓所があったり、直虎さんの母・祐椿尼さんが出家後に過ごしたといわれる松岳院の跡なども残っています。また、浜松市内にある直親墓所の傍らには、幕末の大老として知られる井伊直弼さんが寄進したといわれる石灯籠もあります。そういった後世とのつながりも考えながら訪れるとより楽しめると思います」(小栗さん)

写真提供:浜松市


さらに、直親の子・直政が子ども時代を過ごした鳳来寺(愛知県新城)もこれから小栗さんがぜひ行きたいと思っているおすすめのスポットだそう。

また、小栗さんには直虎ゆかりの地をめぐるときに、みなさんにぜひ手に取ってほしい本があるそうです。

『井伊直虎の城 今川・武田・徳川との城取り合戦』
監修/小和田哲男 発行/小学館
定価/本体1,400円+税


「直虎さんと井伊家、そしてその周辺にかかわる城を網羅した小和田哲男さん監修の『井伊直虎の城』という本です。私の場合、本を読んで勉強するのも好きなんですが、本を片手にこうやって史跡を巡ることで自分に馴染んでくるというか、歴史の息吹を感じることができるんです。
歴史にハマる前は、歴史は暗記ものと思っていて苦手だったんですけど、こうやって気になる人物の史跡を追ってみると、歴史上の人物も今生きてる人間と同じように生きた一人の人間だったんだと思えるようになりました。そこからどんどん歴史がおもしろくなっていったんです。だからみなさんも、自分の興味のある方向から楽しく学んでほしいなと思います」(小栗さん)

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プロフィール


小栗さくらさん

博物館学芸員資格を持つ歴史タレントとして、歴史番組、イベント、講演会などで活躍中。特に好きな時代は幕末と戦国時代。好きな人物は土方歳三と小栗忠順。歴史系アーティスト「さくらゆき」として全国各地でライブ活動なども行う。

■公式ブログ「小栗さくらの諸行無常な日々」
http://ameblo.jp/sakurayuki-sakura/

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