森弘之先生は、実は英語ではなく理論物理学の教授。研究者としてアメリカに滞在し、長年にわたり英語に触れてきました。「読み書きなら専門的な分野まで可能ですが、会話はビジネス英語は分からないけれど、日常生活が問題なく送れるレベルです」と言う先生。どのように数々の場面をくぐり抜けてきたのでしょうか。
「アメリカに2年間住んでいた頃のことです。同僚のスペイン人の英語が訛りすぎていて、スタッフに通じないことがあったんです。でも彼は、自分の英語を理解できないほうがおかしいと言っていました。日本の人なら、自分の英語が通じないことを恥ずかしいと思ってしまいがち。僕もかつてはそうでした。でもそんな場面をいくつも目の当たりにしていたら、だんだん度胸がついてきたんです。それから、間違いを恐れずに話すようになりました」(森弘之先生)
では、接客業ならどれほどの英語力が必要なのでしょうか?
「きちんとした英語でお客様とコミュニケーションを取りたいと思ったら、それなりの時間を費やして英会話を勉強するしかありません。しかし、あくまで通じることを目標にするのであれば、身振り手振りを交えたカタコトの英語で大丈夫。それほど身構える必要はないし、海外の方だからといって、対応を変える必要もありません。良くないのは『英語が分からない』と萎縮してしまうこと。どんどん話せなくなってしまいます」(森弘之先生)
なるほど!考えすぎることがコミュニケーションの足かせになってしまうのですね。
森先生に、「身構えることなくお客様と会話できる」というテーマで、今すぐ使えるシンプルで便利な接客英会話フレーズを教えていただきました。
[Case1:レストランやカフェに入店したお客様に対して]
Hello.(こんにちは。)
How many?(何人ですか。)
Smoking / No smoking?(喫煙ですか、禁煙ですか。)
[森先生からのアドバイス]
英語には「いらっしゃいませ」はありませんので、Hello.でOKです。
喫煙かどうかを聞く場合は、シンプルにSmoking / No smoking?で通じます。
[Case2:お店で商品を見ているお客様に対して]
Can I help you?(なにかお探しですか。なにか手伝いましょうか。)
[森先生からのアドバイス]
これは接客において定番のフレーズです。そして、お客様にCan I help you?と声を掛けた際の受け答えとして使用する、Sure.(かしこまりました。)
こちらもお客様に依頼されたときの定番フレーズですね。
[Case3:アルコールやタバコを買うお客様に、年齢を尋ねるとき]
ID Please.(身分証明書をお願いします。)
How old are you?(おいくつですか。)
[森先生からのアドバイス]
アルコールやタバコに対する年齢制限は、一般的に海外の方が厳しいと言われているので、ID(身分証明書)を確認されることには慣れています。
[Case4:レジを待つ列に、割り込んでしまったお客様に対して]
Could you make a line?(列に並んでいただけますか。)
There is a line. Please wait.(列でお待ちください。)
[森先生からのアドバイス]
列のことは、lineと言います。Could you〜が難しければ、There is a line.とシンプルに言えば良いでしょう。There isが出てこない場合は、Line, Line, please wait!でも通じます。
[Case5:相手の言っていることが聞き取れなかった場合]
Could you say it again?(もう一度言っていただけますか。)
Could you repeat it?(繰り返していただけますか。)
Could you say it slowly?(ゆっくり言っていただけますか。)
[森先生からのアドバイス]
Could youが英語っぽくてとっさに出てこないのであれば、必ずしも付けなくて大丈夫です。Say it again.もしくは文法的には間違っているけれどSay again.でも意味は通じます。
いかがですか?どれも、想像よりずっとシンプルなフレーズだったのではないでしょうか。森先生いわく、コツを掴めば簡単にコミュニケーションができるようになるそうです。
「英文の中には重要な単語がいくつか含まれています。それさえ忘れずに言うことができれば、あとは正しい文でなくても通じます。『Please』という単語も、付けなかったからといってものすごく失礼になるわけではありません。だから、意識しすぎる必要はありません」(森弘之先生)
ただし、日本語とニュアンスが異なる単語については、気を付けなければならないようです。
「『Sorry(ごめんなさい)』には、日本の人が『ありがとう』の代わりに使う『すみません』の意味はありません。日本語で考えたときに『ありがとう』と言いたい場面では、『Thank you』と言うようにしましょう。
謝るつもりではないのに『Sorry』を使うのはトラブルの元です。特に大きな揉め事になりそうなときに安易に『Sorry』と言ってしまうと過失を認めたことになるので、くれぐれも注意してください」(森弘之先生)
海外と比較して、日本の接客はとても丁寧だと言われます。そんなおもてなしの精神があるからこそ、お客様には丁寧な英語で応対しなければと身構えてしまいがちですが…。
「海外では、従業員が無愛想なことが多々あるんです。それと比較すると、日本の接客は世界基準を十分上回っています。だから英語が上手に話せなくても、表情や姿勢が伝わることで許されることも多くあるんです。英語が苦手な人は、うっかり失礼な言い回しをしてしまうんじゃないかと心配になりますよね。もともとカタコトで話しているなら、あまり気にしなくても大丈夫。まずは英語に対するハードルを取り払うことが必要です」(森弘之先生)
いつもどおりの接客さえできれば、英語がカタコトでもなんとかなる。そう思っていれば、気持ちがラクになりますね。
接客に対応できる英会話力をもっと伸ばしたいと思ったら、どうしたら良いのでしょうか。
「まずはお客様が何を求めているかが聞き取れないと始まりません。接客する側として、お客様のニーズを聞き取れるようにリスニング力を高めることが必要ですね。
私が実際にやって良かったと思うおすすめの方法は、海外ドラマを見ることです。最初に字幕付きで見て、2回目以降は字幕を消してみましょう。話の流れが分かっていれば、初めて聞く英語よりずっと聞き取りやすいと思います。他には、ベストセラー本の読み上げ音声を英語で聞いたり、英語のスピーチを繰り返し聞いたりするのも効果的です」(森弘之先生)
そして、なんといっても一番効果的なのは、実際に海外の方とコミュニケーションをとること。自分のお店に海外の方が訪れたらチャンスだと思い、積極的に話しかけてみてはいかがでしょうか。