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2020.09.25

落合恵子さんに聞く「大切な人を介護すること、見送ること」

落合恵子さんに聞く「大切な人を介護すること、見送ること」

クレヨンハウスの主宰としても知られる作家の落合恵子さんは、母親を自宅で7年介護し、見送られました。この経験を著書や講演で多くの人に伝えている落合さんに、自宅介護や心のケアについてお話を伺い、誰もがいつか直面する看取りについて考えます。

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介護は、置かれた状況によって一人ひとり違うもの。

介護は、置かれた状況によって一人ひとり違うもの。

子どもの本の専門店「クレヨンハウス」を主宰し、多くの小説やエッセイを上梓してきた落合恵子さんは、これらの活動を精力的に続けながら、ご自身の母親を7年にわたって自宅介護した経験があります。そんな落合さんに改めて「介護」について伺うと、「私の経験がそのまま役に立つことは残念ながらないと思います。介護は置かれた状況によって一人ひとり違うものです」と断言します。

「真面目で完璧主義な人が多い日本人は、ともすると、どんなことにも確かでしっかりした答えを求めがちです。けれど、介護は『これがベスト』という一つの答えがあるものではありません。親と子の関係性はそれぞれ違いますし、子どもが親を介護するとは限りませんよね。一人ひとり違う介護の形は、その人と重ね合い、分かち合った過去と現在の状況が、そうさせているのではないでしょうか。私は自宅介護を選択しましたが、私と違う選択、例えば施設にお願いする方法もありです。どれがいいか、と他者が判定するものではないと思います」(落合恵子さん)

確かに、介護のやり方は、それぞれの状況でまったく異なります。だからこそ、老いていく親や大切な人に、どう接していけば良いのか、どんな介護をしていけば良いのか、介護が必要になる時に備えて考え、準備しておくことが大切になります。

介護は突然始まる。その時に備えて、情報収集を。

介護は突然始まる。その時に備えて、情報収集を。

では、なぜ落合さんは自宅介護を選択されたのでしょうか?

「介護をテーマにした拙著、小説『泣きかたをわすれていた』(河出書房新社)でも書いていますが、女友だちに『親を在宅で介護するなんて。フェミニストのあなたがなぜ?性別分業を介護に持ち込むの?』と聞かれたことがあります。介護を女の仕事だと固定化して、女性の人生を福祉の含み資産にすることに対しては、異議があります。しかし、私は自分の意志で母を介護しました。そうしたいからそうしただけです。とはいえ、他の人には勧めもしないし、強制もできません。私の母も、祖母を介護していました。祖母がそれを望んだからであり、母も祖母との関係性から自分で介護しようとしたわけですが、祖母を見送った時に、母が涙を流しながらも、むしろ晴れ晴れとした表情で『これで私の大きな仕事が一つ終わった』と言ったのです。だから、私はいつか母を自宅介護する日々に終わりが来ることを知っていました。その終わりに向けて……なのかもしれません。ただ、ただ今日の、今の母と付き合いたいと、一心に走っただけです」(落合恵子さん)

介護は人それぞれではっきりした正解はありませんが、いつか始まるときに備えておきたいもの。落合さんが考える、介護が始まる時のために備えておくべきこととは何でしょうか?

「介護は突然始まります。そしていざ始まると、私のように仕事を持ちながら介護をしなくてはならない人も多いでしょうし、最近では子育てと並行することも珍しくありません。とにかく目が回るほど忙しく、そこから慌てて介護保険や施設を調べようとしても、その説明書を読む暇もないほどです。
なので、情報を収集して備えておいたほうがいいと思います。ベターと思える介護を選択するためには情報が必要です。その時のために、介護保険をはじめ、どんなチョイスがあるか、福祉制度を調べたり、自宅から通える範囲の施設や設備、インフラなど、介護や医療にまつわるさまざまなことを予め把握しておくことが必要。それと、愚痴を言い合える友人も大切です。私も夜の電話に付き合ってもらったりして、友人には本当に助けられました」(落合恵子さん)

こうした経験を踏まえ、落合さんご自身も70歳を越えた今、心身の自由が利かなくなる時への備えを始めています。

「30代、40代の頃から、私は大切な友人を見送ってきました。その友人たちに死が迫ってきた時、どうしてほしいのか言葉では聞いてきましたが、記録しておかないとその意志が叶うことは難しい。また、母の介護をしている時も、『本当はどうしてほしいの?』と聞きたかったことは山ほどあります。しかしその時、母はすでに認知症の中にいて、選択はもちろん、言葉にすることも不可能な状態でした。……私にも、いつかその状況がやってきます。その時に備え、細かく遺言書を作っています。例えば、現代医療ではどうにも抑制できない痛みに絶え間なく襲われた時は、どうしていただきたい、とか」(落合恵子さん)

より望ましい介護を選択するためには、利用できる制度や施設などの情報収集と併せて、年齢を重ねた親や大切な人が自分の意志を明確にできるうちに、その希望を書き残しておくように伝えることも大切ですね。

喪失の悲しみも、人それぞれ。グリーフケアにも答えはない。

喪失の悲しみも、人それぞれ。グリーフケアにも答えはない。

人気作家として忙しい日々を送りながらの自宅介護は、さぞ心身ともに厳しかったのでは?と想像してしまいますが、逆に落合さん自身の支えになっていた一面もあったそうです。

「人間の役割は、『介護される人』『介護する人』と固定されているわけではありません。私も介護しているつもりだった自分が、介護されている母という存在に支えられていたのだ、ケアしてくれていたのだと気づいたのは、母を見送ってからでした。

こんな風に、人の関係性における役割はいつも変わり得る可能性を含んでいるものだと思います。母の介護が始まってから、私が先に死ぬわけにはいかないと、仕事で忙しい中でも体調に細心の注意を払って生活していました。母より先に死ねないという思いは、母を死なせないという思いと重なって、私をむしろタフなファイターにしていたのかもしれません。それもいいことかどうかはわかりません。私は医療のプロではないのですが、彼女の娘という意味ではプロです。彼女が何を心地よいと感じ、何をそうでないと感じるかは、娘のプロである私のほうが正確です。で、母より先に死ねない、と。」(落合恵子さん)

落合さんは自宅介護の後、自宅で母親を見送りました。その後はどのような思いを抱いたのでしょうか?

「最期まで母と過ごすことは、かなり前から決めていました。どんな状態であっても、母が自宅にいることを望んだのは私です。最期の時、母は生きなければならないという責務を、自力で解き放したんだと思います。『母は解き放たれた。もう苦しむことはない。生を手放すことで、母は自由を獲得した』見送ってしばらくして私はこの考えにたどり着きました。私は母ではないので、それが真実だったかどうかわかりませんが、この考えをしばらくの間、私はとても気に入っていました。本当の意味での解放は、死によって得られるとしたら、死別は悲嘆や苦悩を意味するグリーフではありません。私の場合は、グリーフケア(※)は不要かもしれないと思いました。なぜなら、母は自由になったと私には思えたからです。

ただしこれも、私の場合であって、介護と同様に喪失の悲しみも人それぞれで、相似形はありません。自宅で見送っても、施設や病院で見送っても、後悔やグリーフの種は必ず残ります。10年、20年経って芽吹いてくるかもしれませんね。ただ、悲しみに暮れる気持ちを持てたということは、幸せなことでもあります。失ったことを深く嘆き悲しめるほどの人に出会えたことに感謝する、という考え方もできますよ」(落合恵子さん)

※グリーフケアとは
英語でグリーフは「悲嘆、深い悲しみ」、ケアは「世話」を意味する。家族や大切な人が亡くなって深い悲しみと喪失感の中にいる人に対し、寄り添って手助けをしながら、悲しみから立ち直れるまでをサポートすること。

介護と同様、グリーフケアも一人ひとりの状況で異なり、はっきりした答えがないから難しく、悩んでいる人が多いのかもしれません。落合さんなら、大切な人を亡くして悲嘆に暮れている友人がいたら、どのように声をかけますか?

「その答えも一つではありませんね。その友人との普段の関係性、どう付き合ってきたかで変わります。もし、友人が声をかけられたくない時にかけてしまったとしても、普段の関係性が深ければ、声をかけてしまった私のことも理解してくれます。そこまで神経質にならなくても良いのではないでしょうか。人は、こんな時にはこうするべき、とすべて答えを引き出しの中に入れようとしますが、その間からこぼれ落ちていくことの中にも真実はあります。引き出しをすべて埋める必要はないのでは?」(落合恵子さん)

大切な人の最期に向き合う準備をしよう。

大切な人の最期に向き合う準備をしよう。

私たちも、親や家族の介護に直面し、大切な人の最期を見送る場面に立ち会うことでしょう。また、友人や知人が大切な人を失って悲嘆に暮れているとき、その悲しみから立ち直るためにサポートするグリーフケアが必要になることも、これからしばしば訪れることと思います。そのタイミングは予期できず、一人ひとり状況は違うため、備えるべき事項に正解はありませんが、落合さんの言葉にもあるように、さまざまなことを想定した準備をしておくことが大切。老人医療や介護保険などにまつわる情報収集はもちろん、どんなことが起こるのか、また大切な人はその時どうしてほしいと考えているのか、今から知っておくことも必要です。目をそらさず、少しずつでも準備を始めておきましょう。

プロフィール
落合恵子さん
作家。東京青山、大阪江坂にて、子どもの本の専門店「クレヨンハウス」を主宰。総合育児雑誌『月刊クーヨン』、オーガニックマガジン『月刊いいね』発行人。社会構造的に「声が小さな側」の声をテーマにした作品が多い。主な著書に『母に歌う子守唄』『泣きかたをわすれていた』他多数。
イラストレータ
Instagramにて恋愛エッセイ漫画を中心にイラストレーターとして活躍中。ゆるいテイストのイラストがアイコンオーダーでも人気。本業は美容師。
 

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終末期を迎えた本人やその家族に寄り添い、安らかな旅立ちを見届ける専門職「看取り士」。一般社団法人日本看取り士会を立ち上げ、映画『みとりし』の原案の著者でもある柴田久美子さんに、日本の看取りの現状や、誰……

 
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