そもそも薬味とは何でしょうか?また代表的な薬味によって得られる効果について教えてください。
「味にちょっとした変化を加えたり、料理を華やかに演出する際に活躍する薬味。西洋ではスパイス、ハーブと言われていますね。薬味は『くすり(薬)の味』と書きますが、読んで字のごとく『薬効』があります。それぞれに違った効能があるため、自分の体質を考慮し、またその日の体調に配慮して摂取すると効果的です」(井澤由美子さん)
<定番の薬味と効果>
■ショウガ
新陳代謝を促進して体を温める作用があるショウガ。また、発汗作用によって、風邪症状の軽減、解熱、胃腸の働きの改善や消化不良予防などの効果も。すりおろして摂取すると吐き気止めの効果もあります。ショウガの辛味が苦手という方は、加熱したり干したりしたショウガがおすすめ。体を芯から温める効果があります。体に嬉しいさまざまな効能を持ち、一年中使うことができる。ショウガはまさに「薬味の女王」です。
■ニンニク
野菜のなかでも効能抜群なニンニク。栄養価が高いことはもちろん、すりおろしたり刻んだりする時に発生する、ビタミンB6やビタミンB1の効果を促す成分「アリシン」を多く含み、抗菌・殺菌効果、疲労回復や生活習慣病の予防に効果があると言われています。漢方では五臓を元気にする生薬とされています。ショウガが薬味の女王なら、ニンニクは「薬味の王様」かもしれませんね。
■スダチ
スダチには、カリウムやビタミンCなどの栄養が豊富に含まれています。果皮部分にはビタミンE、カルシウム、食物繊維などが、果汁部分にはクエン酸がたっぷりと含まれています。これらは、免疫力向上やむくみ予防、美肌、疲労回復、新陳代謝の向上、食欲増進などのさまざまな効果が期待できます。
■大葉(青ジソ)
大葉にはβカロテンが豊富に含まれています。免疫力を高める働きや、活性酸素を抑え、動脈硬化や心筋梗塞などの生活習慣病から体を守る働きがあり、その含有量は数ある野菜のなかでもトップクラス。その他にも、ビタミンC、ミネラルなども豊富で、がん予防やアンチエイジング効果も期待できます。
■ネギ(長ネギ、タマネギ)
ネギにの硫化アリルは辛味や臭いのもとの成分ですが、疲労回復や新陳代謝の活性化、血栓予防、生活習慣病の予防効果があります。また、ネギといえば風邪予防が有名ですね。「風邪をひいたらネギを焼いて喉に巻く」というのを聞いたことはありませんか?ネギの辛味成分に解毒作用があることからそのように言われているのです。発汗を促して体を温める効果や殺菌作用、解熱効果もあるので、風邪の初期症状回復にはうってつけの野菜です。
「夏場はクーラーなどで特に体を冷やしやすく、出回る野菜も清熱作用が多いものがほとんど。体温が1℃下がると健康を維持するために必要な免疫力が低下することが分かっています。そこで薬味の出番。例えば、冷や奴にはよくショウガやネギが添えられていますね。豆腐やナスには体を冷やす性質があるので、麻婆豆腐や麻婆茄子などにしてたくさんの薬味・香辛料を使用します。これらは単に『おいしい』『味の相性が良い』というだけではなく、体を冷やす食材と体を温める薬味を組み合わせた、とても理にかなった料理なのです」(井澤由美子さん)
■カロテンを含む薬味(野菜)×油
例えばカロテンが豊富な大葉、ニラ、ネギの青い部分は、油とあわせて摂取することで栄養の吸収率が上がります。炒め物や揚げ物でもいいですし、オイルと柑橘や酢のドレッシングをかける、あえるでもいいですね。その他におすすめしたいのは「ゴマ」。ゴマに含まれる油分もカロテンの吸収を助けてくれます。
■アリシンを含む薬味(野菜)×豚肉
ニンニクやネギ(長ネギ、タマネギ)に含まれるアリシンは、細かく刻んで油で調理(加熱)し豚肉とあわせると、疲労回復効果を高めることができます。豚肉にはビタミンB1が豊富に含まれており、アリシンにはビタミンB1の吸収を高める効果があるため相性抜群!これにショウガを加えるとさらに効果UP。つまり豚の生姜焼き等は、疲労回復における鉄板料理というわけです。
■ウナギ×山椒
滋養の高いウナギは暑い時期にピッタリのスタミナ食。しかし、脂っぽいのが気になる……という方も少なくないと思います。そこでぜひ、山椒をひとふり。山椒のピリッとした辛味には、ウナギの脂っこさを抑える効果があります。その他、胃腸を温め消化を促進し、胃の負担を軽減させてくれるため、胃もたれを回避する効果もあります。防腐作用や抗菌作用も高く、お腹の虫下しにも良いとされてきた山椒。昔ながらの食べ合わせや添え物には、ちゃんと意味があるんですね。
<薬味が苦手な人・お子さんでも安心して食べられるコツ>
「ショウガの辛味が苦手だという人には炊き込みご飯がおすすめ。肉やバターなどのタンパク質を加えることで、脂が全体にまわってマイルドになります。加熱することによって辛味も抜けるので、お子さんでも食べやすいご飯になります。生のネギやタマネギの場合は、水にさらせば辛味は抜けますし、加熱すると逆に甘みが出ますね。また、食卓によく登場する大根おろし。大根は一番下(尖っている方)に酵素が詰まっていて辛く、中央は甘いという特徴があります。辛いのが好きな方には一番下を、苦手な方には真ん中を……といったように使い分けるといいですね」(井澤由美子さん)
薬味を使った料理を作ってはいるけれど、パターンが決まっていてマンネリ気味……。もっとバリエーションを増やしたい!そんな方のために、自宅で簡単にできる薬味を使ったアレンジレシピを教えてもらいました。
ドライカレーのカルボナーラ
「最初にご紹介するのは、疲労回復効果抜群のクイックパスタ!ベースは『食べる薬』とも言える薬効の高いニンニク・ショウガ・タマネギ、セロリ。そこへ、クミン・ターメリック・クローブ・コリアンダー・パプリカなどのスパイスたちを加えます。薬味やスパイスは胃腸を整え食欲増進効果や活力を生み、免疫力を高めながら夏の不調を防ぐ手伝いをします。香りによる効果で気分が上がったり、リラックスできるのも良さ。スパイスは熱を加えると香りが引き立つものが多いので、料理をしながらぜひ楽しんでください。こんなたくさんのスパイス、キッチンにないよ!という方もご安心を。お家にあるスパイスを加えるだけで充分です。慣れたら少しずつ増やしてゆくとお料理の幅も広がりますよ。今回はドライカレーなので、時間がかからず、パスタと同時にパパッと作れるレシピです」(井澤由美子さん)
材料(作りやすい分量)
作り方
調理ポイント
薬味やスパイス類の香味成分はほとんどが脂溶性です。最初に油で炒めて香りを出しましょう!
シナモンとシトラス風味のフレンチトースト
「次にご紹介するのは、柑橘の香りに癒されるふんわり甘いフレンチトースト。シナモンは古来より薬とされるほど効能が高く、珍重されてきました。指先など末端まで温める効果があるとされ、甘い香りにリラックスできます。キリッとした風味の柑橘を加えるので、甘くなり過ぎず初夏にぴったりな爽やかさです。オレンジ、レモン、柚子も香りの薬味としてストレスを緩和してくれます」(井澤由美子さん)
材料:2人分
作り方
調理ポイント
パンを熱い鍋に入れるのがポイント。ただ液体に浸すだけだと時間がかかりますが、熱い鍋に入れることでミルク液がすぐに浸透します。
豆腐のふるふる薬味スープ
「最後は、3分でできるとろんとしたふるふるの体温めスープ。ネギやショウガをたっぷり使った、台湾の朝ごはん、ドウジャンの和風アレンジ。熱々の豆乳を注ぐだけで、おぼろ豆腐のようなふるふる食感に!薬味に植物性タンパク質の豆乳と発酵調味料の酢と醤油・鰹節の組合せは、免疫力を上げ、体も心も癒します。小腹が空いた時やダイエットにもおすすめです」(井澤由美子さん)
材料(1人分)
作り方
調理ポイント
豆乳は、沸騰直前まで温めて器に注ぐことで酢の作用によって固まります。
薬味はただおいしいというだけでなく、健康を維持するためのさまざまな効果が期待できる重要な食材だということが分かりました。最後に「これから薬味を使った料理にチャレンジしたい!」という方に向けて、アドバイスやメッセージをお願いします。
「薬味は、使い方次第で薬にも毒にもなります。例えば、一口に風邪といっても症状はさまざま。白い鼻水は体が冷えているサインなので、体を温める作用のあるニンニクやショウガを摂る。逆に黄色い鼻水は体に熱がこもっているサインなので、豆腐やキュウリといった体を冷やす食材を摂るなど、症状によって摂取すべきものも変わってきます。食材の性質を知り、自分に合った食の選択で免疫力が磨かれます。まずはそれぞれの薬味が持つ効果を知りましょう。食薬の知恵が少しあると、いざという時に慌てずにすみ、自然治癒力を高めることもできます」(井澤由美子さん)
「免疫力を高めるには「食、睡眠、運動」の三つの要素を大切にすることです。その時々の自分のカラダの声に耳を傾けてみましょう。不調は案外、食からくることも多いもの。食生活に薬味やスパイスを上手に取り入れることは、体調をととのえ健やかな生活を送る手助けになります。今日食べたものが、未来の自分を作るのです。夏の食卓にたっぷり活用したい薬味やスパイスを、炒め物や煮物、スープなどに気軽に使ってみましょう。魔法のように美味しくなり、カラダが元気になります。