実家は石川県の和菓子屋で、僕は三代目の跡取りでした。一階が厨房で家族はその上で生活していましたから、物心ついたときから職人たちが働く姿を間近で見ていましたね。
そんな僕がパティシエを志そうと決めたのは、小学3年生のとき。友達の誕生日会で初めて食べたショートケーキのおいしさに感動して、「自分もこんなにおいしいケーキを作る人になりたい!」と将来を夢見ました。それで、高校卒業後はすぐ上京して、洋菓子職人を目指す道に進みました。
パティシエという職業の最大の魅力は、美味しいお菓子を生み出して、たくさんの人を笑顔にすること。美味しいお菓子を食べると人は笑顔になるんです。
もちろんそれは和菓子も同じことで、もとを辿れば「お菓子で人を笑顔にしたい」という想いは、祖父の代から続く志と同じだと思っています。
実は「スイーツ」という言葉はアメリカやフランスでは通用しません。なぜならこれは日本で生まれたオリジナルのものだから。そして日本のスイーツのレベルは世界的に見てもとても高い。それなら日本独自のコンテンツとして「スイーツ」を際立たせよう、スイーツを日本の文化にしたいという気持ちから、2011年に日本スイーツ協会を起ち上げました。
僕が提唱している「スイーツ育(いく)」もそういった活動のひとつ。
たとえば、秋に親子で栗拾いに行って、その栗でモンブランを作ってみるといい。調理の前に手を洗うのは衛生観念を教えることだし、スイーツを作る上でどういう手順が必要かを考えることは段取り力を鍛える絶好のチャンス。完成形のイメージを思い浮かべながら、手順を頭の中で組み立て、手際よく行動する。子供のうちにそういった体験を積んでおくと、将来絶対に役に立つと考えています。スイーツを作るという行為を通じて、子供は人間としての基礎力を身につけることができる。それもまた、スイーツがもたらす新しい価値のひとつだと僕は思います。
もちろんユーキャンのスイーツコンシェルジュ講座でも、そういった「スイーツ育」の基礎をしっかり学べるようになっています。僕がスイーツコンシェルジュ講座の監修を引き受けたのも、スイーツのいろんな可能性をもっともっと広げていこうと思ったからです。ただお菓子を作るだけじゃなくて、その「おいしさ」が生まれる背景にあるさまざまな文化や意味を学んだ上で、スイーツをどう社会に活かしていくのか。そのことについて、受講生の皆さんにはそれぞれの立場から考えてもらえたらと思っています。
僕は「スイーツ」は誰もが取っ付きやすい、すごくいいキーワードだと思うんですよ。「美味しい」を入り口に、いろんなものと繋がっていける可能性に満ちている。地域☓スイーツ、観光☓スイーツ、ファッション☓スイーツ、建築☓スイーツ……。そんな風にスイーツはどんなものとでも結びつく、非常に豊かなコンテンツだと僕は考えています。
とくに最近は高齢化社会が進む中で、医療の現場からも「ヘルシーなスイーツ」が必要とされていることを強く実感しています。
たとえば、日常の食生活でも糖質を気にされている人は多いですよね。僕はそんな人たちのために、口どけなめらかできちんと美味しく、糖質をコントロールした「ショコラユニバース」という砂糖不使用のチョコレートを開発しました。
糖質をたくさん摂り過ぎると、血糖値が急上昇したり、インスリンが大量分泌されます。僕はココナッツオイルや柑橘類などを使って作る糖質をコントロールしたスイーツの開発にも今、取り組んでいます。そういう本当の意味でヘルシーなスイーツを、もっともっと身近な日常に落とし込んでいきたい。スイーツは心の栄養。誰もがすべてのライフステージで、それぞれに楽しめるスイーツへのニーズは、この先も確実に増えていくでしょうね。
「スイーツコンシェルジュ講座」はスイーツという身近なキーワードを入り口に、スイーツのいろんな可能性を探っていく講座です。受講している生徒さんは本当にさまざま。美味しいお菓子が大好きだからというOLさんもいれば、いつか洋菓子店を開業するために勉強しておきたいという人、今現在スイーツ関係の仕事に就いているけれどもっと知識の幅を広げていきたいという人もいます。
他にも、お菓子を最もおいしそうな角度から写真を撮りたいというカメラマンや、患者さんのためのお菓子作りをしたいという医師の方も。それぞれの人の得意分野とスイーツを結びつける方法が、この講座を通してきっと見つかるはずです。(※)
(※)「スイーツコンシェルジュ」は「スイーツコンシェルジュ検定ベーシック」合格後、協会より付与される資格です。(別途、登録費用等が必要)スイーツコンシェルジュ講座
https://www.u-can.co.jp/course/data/in_html/1356/
辻口博啓(つじぐち ひろのぶ)シェフ
一般社団法人日本スイーツ協会代表理事
クープ・ド・モンドをはじめ世界大会に日本代表として出場し、数々の優勝経験を持つ。サロン・デュ・ショコラ・パリで発表されるショコラ品評会においては、 2013年、2014年と2年連続で最高評価を獲得。
素材にこだわり、スイーツで地域振興を行うほか、砂糖不使用のチョコレートなど健康に配慮したスイーツを開発する。
お菓子教室「スーパースイーツスクール 自由が丘校」、後進育成のための「スーパースイーツ製菓専門学校」(石川県)両校の校長を務める。
※辻口博啓シェフの「辻」は、本来一点しんにょうですが、環境依存文字のためパソコンの環境によっては二点しんにょうで表示される可能性があります。