「どうしたら、モチベーションを上げられるのでしょうか?」
これは、私のところにもっとも多く寄せられる質問です。「自分の気合が足りないから、モチベーションが上がらないんじゃないか……」、そんな風に自分を責める人も多いようですね。
しかし私は、モチベーションは「いかに上げるか」ではなく、「いかに減らさないか」が大事だと考えています。そこで今回は、資格取得までモチベーションを減らさず、しっかりと維持するための、具体的な方法をご紹介します。
「やろう!」と思い、そして物事に取り掛かるためには、「意志の力」が必要です。
コツコツと、誘惑に負けず毎日勉強している人を見て、「あの人は意志が強い」と思うことがあるでしょう。一方、いつも決意は立派なのに、気づいたらスマートフォンをいじっている自分に対して、「私は意志が弱い」と思うこともあるかもしれません。
しかし、意志は「強い」「弱い」ではありません。体力と同じように、増えたり減ったりするものなのです。
ですから、意志の力をいい加減に使っていると、いざ集中しなければいけないとき、つまり意志の力を必要とするときに、スタミナ切れになることがあります。それは単純に、意志の力の配分の問題だと言えるでしょう。
では、どうすれば「意志の力」を無駄遣いせず、資格取得までモチベーションを維持することができるのでしょうか。以下に、具体的な5つの方法をご紹介します。
1)1ヵ月の計画を立てる
あるとき学生を集めて、こんな実験が行われました。
[Aグループ]
毎日、何を、いつ、どこで勉強するか、細かい計画を立てる。
[Bグループ]
月ごとに、何をどのように勉強するか計画を立てる。
[Cグループ]
何も計画を立てずに勉強する。
研究者たちは、Aグループがもっとも良い結果が出るはずと予測していました。しかし結果は……「Bグループがもっとも勉強の習慣が身につき、勉強に対する意欲や、また実際の成績の伸びも高かった」となりました。
◎参考:『WILLPOWER 意志力の科学』ロイ・バウマイスター、ジョン・ティアニー
なぜこのような結果になったのでしょうか? それは「毎日、細かい計画を立てる」と、時間がかかって思考力を使い、そのことで「意志のスタミナ」が減ってしまうからだと考えられます。
私も学生時代、「毎日、細かい勉強計画を立てる」という失敗をおかしていました。細かい計画を立てると、それだけで満足し、勉強したような気になってしまいますよね。ところが、いざ勉強するときになると、いろいろなものが気になって集中できません。
「集中」とは、他のことを気にせず、対象についてのみ考えることですが、意志の力が減っていると、どうしても他のことが気になってしまいます。つまり、細かい計画を立てることに夢中になると、意志の力を無駄遣いし、集中できなくなってしまうのです。
2)スマートフォンやタブレットを見えないところに移動させる
ある研究では、
[Aグループ]
作業をする最中、スマートフォンが見えるところにあった。
[Bグループ]
作業をする最中、スマートフォンが見えないところにあった。
結果は……「作業成績はBグループの方が高かった」となりました。
◎参考:サザン・メイン大学の実験
たとえ操作していなくても、「スマートフォンが見えるところにある」というだけで、集中力は下がってしまいます。当たり前ですよね。「スマホを見ないぞ!」という意志を遣いながら勉強するのですから、意志の力を無駄遣いして、集中力が削がれてしまいます。そして、「誰かから連絡がくるかも」「あの人は何をしているだろう」と、勉強以外の考えが浮かんでしまうのです。
私はこの事実を知って以来、仕事をするとき、本を読むとき、勉強をするときは、スマートフォンを自分の視界から隠すことにしました。
3)自宅ではないところに行く
意志のスタミナは朝が多く、夜になるほど減っていきます。そして意志の力が減っていると、ちょっとした誘惑やちょっとしたイライラによって、行動や気分が大きな影響を受けます。
よくいただく質問に、「家に帰って勉強しようとすると、だらけて寝てしまう。どうしたら、だらけないでしょうか?」というものがあります。
答えは「自宅で勉強をしない」ことです。
サラリーマンやOLの方が、帰宅して資格の勉強をする。また主婦の方が、1日の用事を終えてから勉強をする。このような状況では、意志のスタミナがほとんど残っていない状態で、勉強と向き合うことになります。
おまけに自宅は、テレビ、ベッド、マンガ、インターネット、お菓子、ソファ……など、誘惑が多い場所です。これらのものを無視するには、相当な意志の力が必要になります。しかし、夜は意志のスタミナが少ないので、それが難しいのです。
ですから、自宅ではない場所を使いましょう。そして大事なことは、「自分に勉強するつもりがあるのか? ないのか?」を、自宅で判断しないことです。とにかくまず、カフェやファミレスなどのドアをくぐってみて、勉強するかしないかは、それから判断するのが良いでしょう。
私もかつては、執筆や研修などを終えた後、帰宅して、お風呂に浸かって、リラックスしてから勉強しようと考えていました。しかし、結局いつもお風呂から出ると、お風呂上がりのビールを飲んで、眠りについてしまっていたのです。今は帰宅する前に、カフェやファミレスに寄って、勉強してから帰ることにしています。
4)持っていく参考書は1冊にする
「あれも勉強したい」「これも勉強したい」という前向きな気持ちは、とても素晴らしいです。しかし、だからといって参考書を何冊も持って行くと、その分、私たちの集中力は下がります。「どれをやろうか」と選ぶだけで意志のスタミナが減りますし、勉強中に「あの参考書も気になる」と思い出すと、目の前の参考書の内容が頭に入らなくなります。
ある実験では、食料品店で、
[Aパターン]
6種類のジャムを試食できるコーナーを作りました。評判が良かったです。
[Bパターン]
24種類のジャムを試食できるコーナーを作りました。もっと評判が良かったです。
ところが売り上げを調べたところ……「Aパターンは、Bパターンの約10倍も売り上げていた」という結果が得られました。
◎参考:コロンビア大学教授による実験
つまり、選択肢が多いと評判は良くなりますが、「どれを買うか」という決断が難しくなるのです。資格取得の勉強に当てはめるならば、参考書の選択肢が多いと満足はするかもしれませんが、実際に勉強するのであれば、その選択肢は少ない方が良い、と言えるでしょう。
私は仕事の前に、研究している分野の本1冊と、ペンとノートだけを持ってカフェを訪れます。参考書が1冊、そしてペンとノートだけ。選択肢をシンプルに削ぐだけで、集中力は上がります。
5)タイマーを使う
スマートフォンを時計がわりにしている人も多いでしょう。しかし、「今何時かな?」と思って何気なくスマートフォンを見たら、そのまま30分スマートフォンをいじっていた……なんていう経験もあるのではないでしょうか?
時間だけをチェックしようと思っても、SNSやメールの着信があれば、その誘惑に抵抗するのは至難のわざです。では、腕時計や壁時計で時間をチェックすれば良いのでしょうか? それでも良いのですが、そもそも「今何時かな?」と気にすること自体、集中力が中断するのでもったいないですよね。
そこで、おすすめは「タイマー」です。タイマーの素晴らしいところは、「集中できる時間」で区切れること。面倒くさいと感じている物事ほど、集中力は切れやすいものですが、たとえば「10分間だけ単語を覚える」と決めてタイマーをセットすると、その10分間は、案外集中できるものですよ。
私は、疲れているときはタイマーを「3分間」にセットして取り組みます。「3分間経ったらやめていい」と自分では決めているわけですが、意外に「もう5分間やってみよう」と、タイマーをセットし直すことがよくあります。みなさんもぜひやってみてください。
「勉強」というと、どうしても「学生時代の勉強」を思い浮かべますよね。しかし社会に出た私たちは、環境も状況も学生とは違います。仕事もして、家事もして、人付き合いもしながら、勉強をしようというわけです。
そもそも「勉強をしたくなければしなくてもいい」状況なのだとしたら、モチベーションを維持するのは簡単なことではありません。しかし、「簡単ではない」ということが自覚できれば、工夫することはできます。私の場合は、勉強する1冊を持って、仕事前と後にカフェへ寄り、スマホを隠して、タイマーをセットするわけです。
この方法は、もちろん唯一の正解というわけではありません。みなさんも、より自分にとって自然で、より楽しく学べる勉強法を見つけて、快適な資格取得への道のりを歩んでくださいね。
プロフィール
池田貴将さん
株式会社オープンプラットフォーム代表取締役。リーダーシップ・行動心理学の研究者。早稲田大学卒。
在学中に渡米し、世界No.1コーチと呼ばれるアンソニー・ロビンズ本人から直接指導を受け、そのノウハウを日本のビジネスシーンで活用しやすいものにアレンジ。感情と行動を生み出す心理学と、人間力を高める東洋哲学を統合した独自のメソッドが注目を浴び、そのセミナーはコンサルタントやビジネス作家などのプロも受講することで広く知られている。 著書に『覚悟の磨き方 超訳吉田松陰』『動きたくて眠れなくなる。』(サンクチュアリ出版)、『未来記憶』『心配するな。』(サンマーク出版)、『がんばらないほうが成功できる』(PHP研究所)などがある。
著書紹介
『図解 モチベーション大百科』