自分の方が相手よりも優位であることを誇示したがるマウンティング女子。テレビドラマがきっかけで注目を浴びた言葉ですが、今ではすっかり定着しました。
「マウンティングの背景には、男性優位の社会構造があると考えられます。長い間、女性は男性に従わされる立場に置かれていました。良い男性に見初められ、選ばれるためには、ライバルの足を引っ張って自分が上位に居続けなければなりません。マウンティングは、男性優位の社会を生き延びるために女性が身につけてきた技と言えます」(石原さん)
心理カウンセラーの石原さんの元にも「同僚に苦手な人がいるが、どうしたら良いか」という相談が増えているそうです。
「このような相談をしてくる人は、自分は被害者であるという認識でいるのですが、同時に加害者であることも少なくありません。これがマウンティングの特徴です。お互いが相手に“勝ちたい”と思い、マウントを取り合うのですが、“勝った”実感がないまま、“負けた”ことだけが強く心に刻まれてやり返し続けるため、マウンティング合戦が終わらないのです。マウンティングの多くは、価値観の異なる二人の主張のし合いです。お互いが、自分の“正しさ”を主張し合うので、折り合いが付かないのです」(石原加受子さん)
第三者からは、意味のない戦いを続けているだけに見えるマウンティング合戦は、このような仕組みだったのですね。
例えば、オフィスでこんなシーンを目にしたことはありませんか? お互いに相手を鼻につく存在だと認識している上司と部下がいて、上司から部下に対して何らかの指示が行われる場面です。
「上司は、自分の指示を部下が受け入れたとしても、ふてくされながら“はーい、分かりましたー”と言った時の部下の態度を見逃しません。自分の命令には従ったものの、反抗的なその態度にフォーカスしてしまい、“負けた”気分が残ります。一方の部下も同じです。態度で反抗はしてみたものの、上司の命令を受け入れたので“負けた”気分が残ります」(石原加受子さん)
スポーツと異なり、両方が“負けた”という認識を持ち続けるため、この戦いはずっと続きます。
「そりが合わない同僚同士でも同じです。苦手意識があると、そのつもりがなくても相手に注目してしまいます。その相手のミスを見つけたら、ここぞとばかりに叩いてしまう。また、その相手がミスをしたのに上司が注意しなかった。そんな状況も許すことができず、怒りが増幅してしまうのです。そうした敵意は相手にも伝わりますから、前述した上司と部下の事例と同じような状況に陥ってしまいがちです」(石原加受子さん)
石原さんによると、マウンティングをしている人には典型な言葉遣いがあると言います。関心がいつも相手に向いているため、言葉の始めが「あなたは」「お前は」「人は」となってしまうのだとか。人に向いていた関心を自分に向ける、つまり「私は」という考え方が始めに出てこない人は要注意なのです。
心身ともに疲弊する原因となるマウンティングには参戦しないのが一番。しかし、今、戦いの真っ最中だという方には、戦いから降りるという選択肢をお勧めします。降りることは負けではなく、向き合う相手を大切な「自分」に変えること。目をつぶって、体の力を抜き、椅子の背もたれに寄りかかってリラックスし、ポジティブな気分を取り戻しましょう。
石原さんは、言葉の使い方を練習していくことで自分と向き合うことができるようになり、マウンティングからも脱却できると言います。以下のAとBの言葉の違いから、あなたは何を感じますか?
マウンティングをしている人はAのような言葉を使います。それに対して、Bは自分が主体になっています。自分がどう考え、どう行動したいのかを意識すると、使う言葉もこんなに変わるという一例です。
「自分を主体にする思考の訓練が必要な人によく勧めるのは、五感を表現する方法です。例えば、食事をした時の味を『私はこう感じる』と何度も表現してみるのです。すべては、感じて、気付いて、言葉にして、行動に移すことで変わっていくのです」(石原加受子さん)
石原さんは、周りに合わせることを重視する人ほどマウンティングに陥りやすいと言います。他者中心ではなく、良い意味で自分中心に物事を考えることで、マウンティングから脱して、人生をより一層充実させたものにできるのです。