こんにちは、日本女性の健康状態をまとめた「働き女子1,000名白書」を発表している、予防医療コンサルタントの細川モモです。長い冬を抜けて、春の訪れを感じる季節。多くの女性がUVケアに乗り出す時期でもありますね。でも、ちょっと待って。行き過ぎたUVケアにより、美肌は守れても、健康が守れなくなる可能性があることを知っていますか?妊娠適齢期の女性ならば、妊娠率への影響も見過ごせません。将来の自分自身の健康のために、これからは「健康を損なわないUVケア」に励みましょう。
「どうしてUVケアに励むと健康が脅かされるの!?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。その理由は、私たちの身体には紫外線を浴びることによって作られる特別な栄養素があるからです。その栄養素は「サンシャイン・ビタミン」と呼ばれ、北欧などの日照時間の少ない国では、飲料に添加されていたり、サプリメントでの摂取が必須となっていたりするビタミンなんです。
「サンシャイン・ビタミン」とは、ビタミンDのこと。
ビタミンDは、近年、インフルエンザの発症リスクを軽減させることや、妊娠しやすい身体づくりのサポート、免疫力の低下により引き起こされるさまざまな身体の不調を予防・改善する効果が期待できることが次々に報告されていて、今とくに注目を浴びているビタミンです。美容面においても、ビタミンD不足とニキビや白髪との関係が報告されています。
そんな女性に必須ともいえるビタミンDですが、とっても個性的なビタミンなんです。まず、ビタミンDが含まれている食材がそれほど多くありません。ダントツで魚(鮭・イクラ・しらす・サンマ他)に含まれますが、それ以外ではキノコ類と卵くらいです。どうです?最近召し上がりましたか?また、ビタミンDは「サンシャイン・ビタミン」といわれる通り、紫外線を浴びることで活性化させる必要があるビタミンでもあります。
そんな個性的なビタミンDですが、最も不足しているのが20~30代の妊娠適齢期世代の女性です。美容への意識が高く紫外線を避けがちであることや、週末の外出率が70代の高齢者より低い(※1)ことも影響していると考えられます。
ビタミンDが妊娠へも影響するビタミンであることは紹介しましたが、実は、私どもが2012年に実施した「卵巣年齢共同研究」でも、30代女性においてビタミンD不足と卵巣年齢(※2)の相関がみられました。不妊治療を受ける際に調べる項目ですが、不妊症患者の増加を受け、なぜ実年齢以上に卵巣年齢が高齢化してしまうのかの要因を調べたところ、20代で卵巣年齢が40歳相当である女性は体脂肪率が低く(痩せ)、30代で卵巣年齢が40歳相当である女性はビタミンDが不足していました。
共同研究を実施した産科婦人科舘出張佐藤病院の研究では、不妊症患者さんの9割近くがビタミンD不足であったそうです。ビタミンDは紫外線によって血中濃度が変化するため(※3)、四季の影響を受けますし、住んでいる場所の影響も受けます。
また、カルシウムを骨に吸着しやすくする働きもあるビタミンD。妊娠後期は、胎児の骨が最も育つ時期なので、ビタミンDの影響を受けやすいです。たとえば、妊娠後期が(ママが紫外線をたっぷり浴びる)夏にあたる「秋生まれの子」は、頭の骨が柔らかい状態で生まれてきてしまう「頭蓋ろう」の発症率が低い傾向があります。そして逆に、妊娠後期が冬にあたる「春生まれの子」は、その発症率が高い傾向があります。妊娠適齢期の女性のビタミンDの状態は、自分の健康だけでなく、生まれてくる子どもにも影響することをぜひ覚えておきましょう。
※1:「2015年全国都市交通特性調査」より。 ※2:卵巣年齢とは、卵巣内に眠る発育過程にある卵胞から分泌されるAMH(抗ミュラー管ホルモン)を調べることで、卵子の残り数を示すものです。 ※3:本章でいう血中ビタミンDは25(OH)D 。
20~30代の女性がビタミンDを不足させやすい背景として、仕事も影響しています。東京で働く日本人女性1,022名を対象にした調査結果(※4)では、勤務時間が長くなるほどビタミンDが不足しやすいことが明らかになりました。
勤務時間が長い女性は、朝ごはんを抜きやすく、夜ごはんを遅い時間に食べ、空腹をおやつで紛らわせることから糖質や脂質の摂取量が多く、ビタミン・ミネラルを不足させやすい状況にあります。仕事の疲れが溜まっているので、休日もアクティビティーというよりは、家にこもってDVDなどを見ている傾向にあるようです。
しかし、この状態が長く続くのは健康を消耗しているようなもので、免疫や骨密度、妊娠率などが低下しかねません。ビタミンDを充足させるために必要な日光浴の時間はエリアによって異なりますが、おおむね1日15~30分を目安とし(冬はもっと長く)、通勤時間は公園の中を通って朝日を浴びるなどの工夫をしてみてください。平日は忙しくて日光浴が難しいという方は、ビタミンDは身体に貯めておくことができるビタミンなので、週末はテラスで日光浴をしながらランチやカフェを楽しんでみるのはいかがでしょうか?
日光浴をする際には、足の甲や手のひらなどを、意識して日に当てるようにしてください。手のひらはメラニン色素が少ないため、日焼けをしにくいです。食事も、忙しくても簡単に取り入れられる鮭フレークや鮭茶漬け、しらすごはんなどを、朝食や夜食の定番にするとよいでしょう。絶対に日焼けしたくない人や魚が苦手な人は、サプリメントでビタミンDを補充するのでもよいです。
※4:c 2015 三菱地所株式会社・一般社団法人ラブテリAll Rights Reserved. 調べ。
いかがでしたか。美容にとってよいことが、健康を害するリスクがあるということに、驚かれた方も少なくないと思います。巷にあふれかえっている美容・健康・ダイエット情報で、裏づけのあるものは本当にわずかです。美しい肌や髪、潤沢な女性ホルモンや血液、それらはすべて健康の土台の上に成り立つもの。人生100年時代を生きる私たち女性は、自分の身体を賢く守っていかねばなりません。
日照時間の少ない国は、ビタミンD欠乏だけでなく、うつ病もとても多いのです。適度なUVケアは大切ですが、紫外線の悪い側面だけを見るのはやめましょう。「知は力なり」という言葉の通り、食事の知識は一生ものです。自分の、そして大切な誰かの健康を守ることができます。望む人生を叶えるために、ぜひ正しい知識を身につけてください。
食生活アドバイザー(R)講座へのリンク