「まちの保育園」があるのは、東京都。2011年3月に開園した小竹向原園、六本木、吉祥寺、代々木上原(代々木上原は認定こども園「まちのこども園」)と現在4園あり、2017年秋には代々木公園にも開園予定です。まずは、まちの保育園・まちのこども園が大切にしているという、「2つの視点」を教えていただきました。
「1つは、子どもたちの成長や学びのために、地域にいる人々や施設、商店街といったあらゆる地域の資源を活かすということ。もう1つは、保育園がまちづくりの拠点になっていくということです。この2つの視点で、『まちぐるみの保育』が成立すると考えています」(松本さん)
子どもは豊かな学びを得られ、地域はコミュニティの活性化に繋がる……それぞれのニーズを満たしている、素敵な関係性ですね!具体的に、保育園とまちはどのように関わっているのでしょうか?
「例えば、子どもたちが『鳥に興味がある』と言うので、近隣の企業で活動をされている『鳥博士』にお話を聞きに行こうということになりました。そこからフィールドワークに発展したり、『一緒に巣箱を作ろう』と学びが広がったりましたね。最終的には、みんなでデザインから考えて巣箱を作り、その地域の木を管理している方にお願いして、設置させていただきました。こういった取り組みはもう2年以上続いています」(松本さん)
この他にも、六本木園では、併設のカフェでサラリーマンと子どもがお喋りしたり、園内にあるコミュニティスペースを地域の方々に解放したりと、「まちの保育園」を拠点に多くの交流が生まれているそうです。
松本さんがこのような保育園づくりを志した背景には、「地域交流の希薄化や核家族化などによる、母親のみが子どもを育てる『孤育て』家庭の増加という問題を解決したい」との想いがあったと言います。また、「子どもの環境を良くしていくことは、社会全体をより良くしていくことに繋がる」とも考えているとのこと。
実際に、「まちの保育園」ができてから、「地域の人と挨拶をするようになった」「家庭ではなかなかできないことを体験できて、子どもだけでなく親も楽しんでいる」という言葉をもらうことがあるそうで、「保育園を中心にまちの交流が増えているのを実感しています」と、松本さんは話します。
一方、子ども目線で「まちの保育園」を見たとき、大事にしていることは『子どもたちの主体性』と『個』だと語る、松本さん。
「『まちの保育園』では、基本的に、全員で同じことをする、いわゆる『一斉保育』を行っていません。毎朝、『今どんなことに興味があるのか?』といったことをみんなで話し合う『朝の会』を開き、そこから7~8人の少人数グループに分かれて探究活動をします。例えば、『ダンゴムシを探したい』というグループや、『近くのギャラリーで面白い展示をやっているらしいから見に行きたい』というように。そして、ランチ前に『昼の会』を行い、そこで子どもたちは午前中の活動について、面白かったことや難しかったことなどを発表し合うんです」(松本さん)
これこそまさに、「まちの保育園」の大きな特徴。子どもたちは、自分の意思で動き、決定し、気付き、学んでいるんですね。
「子どもたちには、自分が面白いと思うものを納得いくまで探究してほしい」そんな学びの方針には、子どもたちの未来を見据えた思いがあると、松本さんは言います。
「これまでの日本の教育は、座学スタイルのティーチングが主流でしたが、これからはワークショップやディベート形式で積極的に参加する『アクティブラーニング』という学び方に変化していくと考えられます。自分で考える力や、物事を円滑に進める力、他者とのコミュニケーション能力といった、テストでは測れない『非認知能力』が大事になってくるでしょう。この能力は、実は0から6歳の間に最も身につくとされ、幼児期の生活環境がその後の心理的な行動パターンを形成し、学業成績にも影響すると言われています(※)」(松本さん)
※参考:『幼児教育の経済学』ジェームズ・J・ヘックマン
興味のあることを見つけ、さまざまな人と触れ合いながら、実体験を通じて学んでいく。「非認知能力」を高めるために必要な経験が、「まちの保育園」では遊びを通して自然と身につくのですね!
そして、子どもたちの「探究時間」を豊かなものにするために欠かせないのが、保育士の存在です。
「例えば、『ダンゴムシを探したい』となったときに、その子どもたちがどれだけダンゴムシに対する経験や知識を持っているかを見極めるのは、保育士の役割です。『なんでやりたいの?』とか、『ダンゴムシってどういうイメージがある?』などと聞きながら、子どもたちの知識の状況を掴んでいきます。それによって、活動の展開の仕方が全然違いますからね」(松本さん)
また、「保育士は、子どもを子ども扱いしないよう心掛けることも大事」と話す松本さん。
「子どもたちを1人の市民として頼り、質問もしましょう。『○○君が困ってるからちょっと助けてくれない?』とか、子どもたち同士の社会や関係性を育んでいくための、手助けをするイメージですね」(松本さん)
このように自主性を育む保育には、「保育士自身が心身ともに充実していることが不可欠」と松本さんは言います。
「例えば、道端に咲いている花に季節を感じることができるような、日常をていねいに積み重ねることを大切にできる人は、子どもたちの成長を感じ取り、ともに喜べる人だと思いますね」(松本さん)
最後に、松本さんの考える保育の魅力についてお伺いしました。
「一番の魅力は、子どもたちの成長ですね。ともに生活をするなかで、子どもたちから引き出されるさまざまなアイデアや能力には、本当に感動します。私たちは、子どもたちを育てることを通して、社会を作っているのではないかと考えているんです。保育士は、0から6歳という、人の一生においてとても大事な時期に、保護者の方より長い時間を一緒に過ごすかもしれないですよね。15年後や20年後、まさに社会を作る立場になる子どもたちに大きな影響与える、人の一生に関わる大切な仕事だと考えています」(松本さん)
「まちの保育園」は、子どもがいる親だけでなく、誰にとってもワクワクする場所。それは「まちの保育園」が子どもたちだけのものでなく、地域の人や大人たち、すべての人にとって出会いと学びの場になり得るからです。「同じような思いを持った保育園や幼稚園が、日本に広まってくれると嬉しい」と松本さんが話すように、保育園が新たなコミュニケーションスポットになる日が来るかもしれませんね!
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