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2017.02.21

手紙に想いをしたためる。急成長アパレルブランド「ファクトリエ」のウラに隠された「手書き」の精神

手紙に想いをしたためる。急成長アパレルブランド「ファクトリエ」のウラに隠された「手書き」の精神

高品質の製品をつくる日本の工場と顧客を直接つなぐというコンセプトで注目され、ファッション業界で急成長するファッションブランド「ファクトリエ」。代表・山田敏夫さんは印刷よりも手書きの手紙のほうが伝わると考え、顧客のもとへ届く商品に直筆の手紙を添えているのだとか。山田さんが伝えたい「想い」とは?

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衰退した日本のものづくりをもう一度。本当の意味で「日本の」ブランドを作る

衰退した日本のものづくりをもう一度。本当の意味で「日本の」ブランドを作る

世界の一流ブランドを手がける日本の工場と直接提携することで、こだわりの詰まった最高品質の商品を、コストを抑えて顧客へ届ける――。山田敏夫さんは、メイドインジャパンにこだわった自身のブランド「ファクトリエ」を立ち上げるに至った原体験は「熊本の実家が婦人服屋だったこと」と振り返ります。

学生時代も部活がなければ店番をしていたという、服に囲まれた生活。日本製のいいものを知っていただけに、大学時代にフランスへ留学し、グッチ・パリ店で勤務した時に、同僚から言われた言葉は衝撃的だったそうです。

「日本には長い歴史があり、あんなに素晴らしい織りや染めの技術があるのに、なぜ日本にはヨーロッパのような本物のブランドがないのか。ブランドのロゴを作って、商品は中国製。自分たちのものづくりの技術は生かせておらず、表層的でしかない、と指摘されたんです」(山田さん)

日本の工場がもつ高い技術でつくった商品を世界に届けよう、本当の意味での日本のブランドを作ろう、と山田さんは思い立ちましたが、日本のアパレルブランドの生産はコストの安い海外へシフトし、すっかり空洞化していました。日本の技術の高さは海外では大きな信頼を得ているのにもかかわらず、当の日本人がその価値よりもコストを優先させてしまったことで、アパレル技術を衰退させてしまっていたのです。

「1990年のアパレル商品の国産率は50%だったのが、近年ではわずか3%へ落ち込み、日本中のアパレル工場が元気も希望も失っていました。彼らをパートナーとして、高品質ないいものづくりをし、一流のブランドを作りたいと考え、僕はファクトリエと一緒にファクトリーブランドを作らないかと、日本中の工場を回りました」(山田さん)

命を燃焼させる「時」を大切にしたい

命を燃焼させる「時」を大切にしたい

「これからの時代のキーワードは『時』だと思うんです」と、山田さんは話します。

「例えば80年前の織り機を丁寧に使って1日に3本だけしか織れない高品質のネクタイには、心や感性、時といった、人間ならではの価値が詰まっています。大切な人からプレゼントをもらうとき、プレゼントそのものよりも、その人が自分のために時間をかけて悩んで選んでくれたことが嬉しいと感じるのも同じこと。『時』は人間にしか作れない価値なんですよ」(山田さん)

もともと日本は東洋的な、余白や行間など、言葉にならないものを大切にする文化だったはず。でも、コスト削減や効率性を追い求めた結果、いつしか、わかりやすくて目に見える結論を求めるようになってしまいました。「それが、五感で感じられる美しさや本質とは離れたファストファッションへと向かってしまったのではないでしょうか」と、山田さんは憂えます。

「着心地のいいものを長く着るというシンプルな発想さえ大切にすれば、優れたパターンや縫製、素材のよさ、地球環境に負荷がかからない原料の育て方など、自然と『お金ではない、別の価値』へとたどり着くんです」(山田さん)

山田さんの口調には、自分たちのものづくりを決して鈍らせない、妥協しないという徹底した気持ちが感じられます。彼はそれを「僕たちは、ものづくりを通して、その時間、命を燃やしているんです」と表現しました。

「もっと安く、早く、わかりやすくという世間の要求への葛藤も、もちろんあります。でも僕らができることは、日本のものづくりを正しく伝え、販売すること。作り手の皆さんにできるのは、時の価値を発揮する、こだわりの商品を作ることですから」(山田さん)

山田さんは、そうやって時間と手間をかけた商品の良さをきちんと伝えるための方法を、ずっと追い求めているのです。

商品へ込めた想いを伝えるために始めた、手書きの手紙

商品へ込めた想いを伝えるために始めた、手書きの手紙

「時」を大切にする山田さん。だからこそ顧客に届く商品にも、「モノに対するこだわりや、ストーリーを感じて欲しい」と、山田さん自身と工場の作り手の双方から、商品を購入した一人一人へ差し出される手書きの手紙を添えているそうです。

「それが、僕らに合ったコミュニケーションだからです。何十年も継承・伝承されてきた技術を妥協することなく注ぎ込んだ、まさに作り手の命を燃焼させてつくったともいえるものであることをちゃんと伝えるために、一字一字がそれを背負っている。僕たちのやっていることへ興味を持ってもらい、日本の昔の感性を取り戻してもらうための小さな社会変革……みたいなものですね」(山田さん)

山田さんは、ビジネス上で会いたい人にも手書きの手紙を送るそう。

「離己利他(自分の利益を優先するのでなく、他者の利益のために働く)の精神だと思います。携わってくれる人は、僕らのために時間を割いてくれる。命を燃焼させてくれている。命の時間をいただいている気持ちがあれば、そこに感謝が生まれますよね。だから自分の思いを最大限伝える意味でも、時間をかけて手書きの手紙を送るのが、僕にとっては自然なことなんです」(山田さん)

使い慣れた便箋の上にさらさらとペンを走らせる姿に、日本のものづくりを信じる若き起業家の真心を感じさせられました。

【取材協力】

山田敏夫(やまだとしお)さん
1982年、熊本生まれ。1917年創業の老舗婦人服店の息子として、日本製の上質で豊かな色合いのメイドインジャパン製品に囲まれて育つ。
大学在学中、フランスへ留学しグッチ・パリ店で勤務。卒業後、ソフトバンク・ヒューマンキャピタル株式会社へ入社。
2010年に東京ガールズコレクションの公式通販サイトを運営する株式会社ファッションウォーカー(現:株式会社ファッション・コ・ラボ)へ転職し、社長直轄の事業開発部にて、最先端のファッションビジネスを経験。
2012年ライフスタイルアクセント株式会社を設立。 「メイドインジャパンを守り、工場と消費者を正しい価値価格でつなぐ」をコンセプトに世界の有名ブランドから生産を委託されているような工場と直接提携、メイドインジャパン専門のファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」を立ち上げる。
中小企業基盤整備機構事業「新ジャパンメイド企画」審査員、またファクトリエは経済産業省「平成26年度製造基盤技術実態等調査事業(我が国繊維産地企業の商品開発・販路開拓の在り方に関する調査事業)」を受託。

メイドインジャパンの工場直結ファッションブランド「Factelier(ファクトリエ)」
https://factelier.com/

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